今月の主題

膵炎のマネジメント-急性膵炎・慢性膵炎・自己免疫性膵炎

下瀬川 徹(東北大学大学院消化器病態学)


ひと口に「膵炎」といっても,急性膵炎,慢性膵炎,自己免疫性膵炎では病態が全く違っており,したがって対応も異なる.膵炎は消化器領域の中では比較的頻度が低い疾患であるが,腹痛や糖尿病などで受診することが多く,一般内科医や初期研修医にもよく念頭に置いてほしい疾患である.特に急性膵炎は,初期診療の善し悪しが患者の生命予後に大きな影響を与える.迅速かつ正確な診断と初期対応,重症化の徴候や病態を知っておく必要がある.慢性膵炎は長期にわたる疾患であるが,成因や病期によって臨床症状や病態が異なり,このような疾患の特徴を理解した適切な診療が求められる.進行した慢性膵炎患者は消化吸収障害による低栄養状態と膵内分泌不全による糖尿病が共存した複雑な病態であり,飲酒継続例では低血糖による死亡例が多い.日常のきめ細やかな診療が患者の生命予後やQOLに影響を与える.自己免疫性膵炎は日本から発信された新しい疾患概念である.高齢男性で無痛性黄疸あるいは軽い腹痛で発症することが多く,画像上は膵癌や胆道癌との鑑別が難しいことがある.経口ステロイドが特効薬であり,適切に治療すると不要な外科手術を避けることができる.一方,悪性疾患との鑑別が不十分だと,癌に対する外科治療のタイミングを失う可能性もある.

このように,膵炎の診療には専門的な知識や治療法が必要とされることが多く,開業医を初めとする一般内科医と専門医療施設との診療連携が大変重要である.本号の特集では,研修医,一般医家,諸領域の専門医がそれぞれの立場で役立つような膵炎診療上のポイントを解りやすく解説するように心がけた.座談会では,診断基準改訂や診療ガイドラインを中心に,膵炎それぞれの最近の動向についても触れた.本特集が皆様の日常診療に役立ち,患者さんの予後の改善につながるような,より適切な膵炎診療が行われる助けとなることを願っている.