今月の主題

内科臨床に役立つ心療内科的アプローチ

熊野宏昭(東京大学医学部附属病院心療内科)


 本特集では,心療内科的アプローチのエッセンスを,読者の方々の臨床に今日からでも役に立てていただけるように,心療内科のみならず内科,精神科,臨床心理を専門とする多くの先生方にもご協力いただきながら,わかりやすくご紹介することを狙いとしました.

 心療内科的アプローチの特徴は,身体面に加えて心理行動面からも見立てと介入を行うことにあります.現在,内科で診る多くの疾患は生活習慣病に含まれ,治療を進めるうえで生活習慣(=行動)をどのように変えていくかが重要なポイントになりますが,これまでの医学教育ではその扱いが不十分であり,読者の多くにとっては具体的な方法論がわからないというのが正直なところではないでしょうか.心療内科では,身体面からのアプローチに加えて,いろいろな面に気を配らないとよくならない慢性身体疾患(=心身症)を対象に,臨床経験や実証的研究を積み重ねてきました.そのなかで,治療関係づくりや医療面接のスキルを発達させるとともに,認知行動療法に代表される生活習慣の変容方法を積極的に活用しながら,心理行動面と身体面の複雑な相互関係に注目してきたわけです.その経験の蓄積から,生活習慣病の臨床全般に対しても広く寄与できるものがあると考え,「生活習慣病の認知行動療法」を本特集の一つの柱にいたしました.また,応用問題として,上記の通り,重篤ではないにしても難治性の慢性身体疾患である心身症について,基本的な理解の枠組みを提供し,身体に効く薬,脳や心に効く薬,行動変容を組み合わせてアプローチする方法論の基礎について理解していただけるようにしました.

 そして,もう一つの柱として,うつ病やパニック障害など,精神疾患のなかで内科にもよく受診するコモンメンタルディジーズに関して,その診断・薬物療法・心理的対応の基本について情報提供していただきました.これらの疾患は,多彩な身体症状をきたすため,心療内科はもとより内科全般に受診することが多く,また有病率が高いため,現実的に精神科だけで対応することはできず,内科での初期治療と専門医との連携が重要になります.

 座談会では,内科,心療内科,精神科,臨床心理の専門家が,内科臨床における認知行動療法やメンタルヘルスの基礎知識の必要性について,お互いの専門領域を踏まえた率直な意見を交換し合うことで,本特集の意図をさらに明確にできたものと思います.読者の皆様の忌憚のないご意見をいただき,今後さらに議論が深まることを期待しております.