今月の主題

内科医が診る睡眠障害

塩見利明(愛知医科大学病院睡眠医療センター)


 睡眠障害の診察は,どの診療科の医師がどのような方法で行えばいいのだろうか。わが国の大学医学部では,睡眠医学の実践的な卒前・卒後教育が行われていないため,ほとんどの内科医は睡眠障害(sleep disorders)に何種類の病気があるのかさえもわからず,またそれらの実践的な診断法・治療法についても即答できないのが現状である。

 不眠,睡眠障害,睡眠呼吸障害,睡眠覚醒障害,睡眠覚醒リズム障害,という用語の違い,また睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)という大変手間のかかる検査が睡眠障害の診断に必須で,PSGを集中的に行う睡眠医療センターの設置がわが国にはまだ非常に少ないことに早く気づくべきである。

 健康な人も病気の人も必ず眠るため,睡眠障害はどこにでもある病気である。不眠症は不安・うつに関連があるため,精神科と心療内科を受診することが多い。睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)はその臨床症状が多彩であるため,いびきは耳鼻咽喉科,昼間眠気は精神科,無呼吸は呼吸器科,起床時頭痛は神経科,夜間頻尿は泌尿器科,夜間胸やけは消化器科,また肥満を伴うメタボリックシンドロームは循環器科と糖尿病内分泌代謝科を受診することが多い。さらにむずむず脚症候群(restless legs syndrome:RLS)は神経科を受診することが多い。しかし,これらの睡眠障害の重症度が軽症(~中等症)の場合は,すべてにおいてプライマリケアの現場で内科医が対応できる病態である。

 生活習慣改善の指導は,これまで栄養療法と運動療法の併用が中心であった。しかし,一日24時間のライフスタイルの1/3,約8時間を占める睡眠(安静)に病的な障害があるとすれば,適切な運動処方で指導したつもりでも翌日以降に疲れが溜まり,運動習慣を獲得することは困難となる。爽やかに目覚めて翌日も元気であるために,良い睡眠を取らせることは生活習慣の改善において重要な意味をもっている。睡眠障害は広義には生活習慣病の一つであるため,栄養療法,運動療法,そして睡眠療法は生活習慣の改善の三本柱と考えられる。

 高血圧や糖尿病などの生活習慣病は内科医が最も多数診察するため,内科医は睡眠医学や睡眠療法を率先して学ぶ必要がある。さらに,慢性の睡眠不足を放置すると重大な産業事故を引き起こすことも報告されているため,睡眠衛生および睡眠医療の必要性を現代社会は切実に要求し始めている。うつ病と自殺の背景には,不眠という睡眠障害が指摘されることもある。最近話題のメタボリックシンドロームの背後にもSAS という病気が潜んでいることが少なくない。

 これからの内科医は,慢性疾患患者の指導管理において,特にQOL(quality of life)を高めるためにも,睡眠医療にもっと関心をもつべきである。今回の特集「内科医が診る睡眠障害」がそのお役に立てれば幸いである。