今月の主題

症例からみる肺疾患のCT画像

三嶋理晃(京都大学医学部呼吸器内科)
村田喜代史(滋賀医科大学放射線科)


 近年の胸部CTの解像度の進歩に伴って,呼吸器疾患の重要な疾患単位である,比較的末梢の気道や小葉単位の病変が明確に描出されるようになり,「生きた人:living person」から病理学的な情報が得られるようになった。その結果,CT画像は,呼吸器疾患の鑑別診断や治療法の選択に大きな貢献をするようになってきている。すでに,呼吸器疾患に関するCT画像の解説書には優れたものが数種出版されているが,この特集では,研修医・レジデントなどの初学の先生方や,呼吸器を専門としない先生方をも対象に含めて,実地医療に即応できるような症例提示を中心とした体裁を整えた。具体的には以下に述べるような特色を持つ。

 まず,総論:「肺CTの基本を押さえる」では,著名な放射線科専門医の先生が,肺CTの正常像と各種呼吸器疾患におけるCT画像を総括的に解説されている。各論:「肺疾患をCTで診る」では,全国で活躍されている多数の呼吸器内科専門医の先生に,各疾患を症例報告に近い形で提示していただいた。CT画像の詳細な解説に加えて,各疾患の病像で最も特徴的な点は何か,その中でCT画像をどう位置付けるべきか(診断の鍵とするのか,治療戦略を立てるうえでの鍵とするのか)などの論点を整理していただいた。さらに胸部X線でかなりの情報が得られる場合は,胸部X線も供覧していただいた。各論における疾患のカテゴリーとしては,肺腫瘍・肺感染症・びまん性肺疾患・気道病変・肺血管病変の5つに分類し,各カテゴリ-で重要と考えられる疾患を網羅した。肺腫瘍は,肺門部肺癌・原発性肺野型肺癌・転移性肺癌・肺良性腫瘍に,肺感染症は,細菌性肺炎・非定型肺炎・抗酸菌症・日和見感染症に分類した。びまん性肺疾患は,間質性肺炎・肉芽腫性肺疾患・塵肺・その他に分類したが,間質性肺炎については分類が複雑であり,その理解を助けるため,「間質性肺炎はどのように分類されるか」という解説を入れている。また,気道病変は慢性閉塞性肺疾患・気管支喘息,びまん性汎細気管支炎,気管支拡張症に分類し,肺血管病変では急性・慢性肺血栓塞栓症や特発性肺動脈性肺高血圧症など臨床的に重要な疾患に重点を置いている。

 ここで特に初学の先生方へのアドバイスがある。それは,「まず胸部X線を撮って,胸部CT撮影の可否を的確に判定する」ということである。若年者の肺炎などは,はじめは胸部X線のみで治療を開始し,治療に難渋した時点で胸部CTを検討すべきで,X線被曝の軽減については常に留意すべきである。逆に,肺門部肺癌などで,胸部X線の異常を疑えば,胸部CTの撮像に進むことが,医療過誤を防ぐためにも重要である。最近は胸部CTに頼るあまりに胸部X線の読影力が低下しているといわれているが(呼吸器専門医も同様である),常に胸部X線の読影力を磨いておく必要性は今も変わらない。「まず胸部X線ありき」である。この点も含めて,如何に「日常の呼吸器診療でCTを使いこなす」かについての座談会も組まれている。この特集が先生方の明日からの呼吸器診療の大きな糧になることを信じてやまない。