今月の主題

頭痛治療の疑問を解決する

鈴木則宏(慶應義塾大学医学部神経内科)


 かつて鎮痛薬と酒石酸エルゴタミンしか手段がなかった慢性頭痛治療は,トリプタンによる片頭痛治療の出現とともに大きく変貌した。トリプタン治療の一般化により片頭痛患者の生活支障度が軽減しQOLも向上した。現在,「片頭痛発作すなわちすべての生活活動の停止」という図式はかなり弱まってきているといってよいであろう。しかし,その反面,このような頭痛医療の進歩改善にともなって実際の頭痛診療では,トリプタンの効かない片頭痛(様)発作やトリプタンの内服指導の難しさ,あるいは鎮痛薬やトリプタン自体による薬剤誘発性頭痛への移行や変容など,新たな疑問や問題点が出てきていることも事実である。

 本特集の目的は,一般臨床医,特にプライマリケアを実践している医師がまさに現場で疑問に思い,あるいは不安に感じている問題点を抽出し,その問題解決と実践の標準を一目瞭然に理解できること,そして現場で活用できることとした。また,一般の頭痛診療に必要な基礎知識はもちろん,あわせて頭痛をめぐる最近のトピックスも取り入れることにより,頭痛全体のupdateな知識をも同時に理解できるように工夫した。トピックスとしては,最近厚生労働省こころの健康班会議から公表された「頭痛診療ガイドライン」の臨床現場での活用法,日本人の片頭痛には診断に直結するような独特の特徴があるのか,現在4種類あるトリプタンの使い分けに標準はあるのか,高血圧は頭痛の原因か結果か,片頭痛は脳梗塞の危険因子か,小児の片頭痛に対する片頭痛治療の標準はあるのか,妊娠・授乳期の片頭痛治療はどうするのか,など疑問と同時にトピックともいえるものを随所に鏤めた。

 本特集を通読することにより,欧米と遜色のない現在のわが国の頭痛治療の最先端の知識を習得していただけることと思う。そして,それらが第一線で活躍している臨床医の方々の日常臨床の糧になれば幸いである