今月の主題

消化器内視鏡治療の現在

田尻 久雄(東京慈恵会医科大学消化器・肝臓内科)


 消化器領域での内視鏡を利用した治療の試みは比較的近年になってからである。内視鏡を用いた初期の本格的な治療への応用としては,常岡による胃ポリープの機械的絞扼切除(1968年),丹羽による高周波電流を用いた胃ポリープの焼灼摘除(1968年),並木による胃壁内局所注射による潰瘍治療法の開発(1970年)などがある。その後も多くの新しい内視鏡治療手技が開発されてきたが,特に1980年代以降の20数年間は内視鏡診断・治療面に大きな変革をもたらした時代である。診断面では特に電子内視鏡,超音波内視鏡の登場とその関連の進歩により消化器癌の早期発見・早期診断の精度が著しく向上してきた。精緻な診断学によって治療にも大きな変革が生じてきている。早期消化管癌に対するEMR,ESDなどの内視鏡治療や鏡視下手術の進歩・普及である。鏡視下手術においては,良性から悪性疾患,腹腔鏡から胸腔鏡にいたるまで多種多様の治療が可能になり,消化器疾患に対する外科的手術のほとんどが,内視鏡下にできるようになったといっても過言ではない。暗黒大陸,ブラックボックスなどと称されてきた小腸に関しては,カプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡の登場により,現在,小腸疾患の診断と治療は大きな革命期を迎えている。

 今日,わが国は世界に類を見ない急速な少子・高齢化,窮迫する医療経済状況に直面しており,従来の外科手術に比し,低侵襲・低コストとされる内視鏡治療への期待が急速に高まってきている。その期待に応えるべく,安全性の確保は勿論のこと,特に悪性疾患に対しては,従来の外科手術に劣らぬ長期予後が得られなければならない。今後,さらに消化器内視鏡治療を発展させるには,新しい手技や機器の開発ばかりでなく,多種多様化した内視鏡治療法の習得のためのトレーニングシステムや学会レベルでの技術認定制度を構築することも重要と考えられる。

 本特集では,消化器内視鏡治療の第一人者が執筆されている。各種内視鏡治療の適応と手技に関する詳細について十分理解され,臨床の現場において生かされることを期待したい。