今月の主題

ベッドサイドの免疫学 -免疫疾患に強くなるために

三森経世(京都大学大学院医学研究科臨床免疫学)


 近年の免疫学の発展は見覚ましく,免疫系を構成する基本的なしくみに関与する細胞や分子およびそれらのネットワークが次々と明らかにされている。医学のあらゆる領域において免疫がかかわる疾患や病態は非常に多く,自己免疫疾患,アレルギー,免疫不全など免疫の異常が発症に直接関与する疾患のみならず,感染症,癌,移植などにも免疫は重要な役割を果たしている。近年はトランスレーショナル・リサーチが盛んで,特に免疫学の分野におけるBench(研究室)の基礎的研究成果がBedside(臨床現場)に直結する研究が脚光を浴びている。しかし,このような知識と情報の流れは決して基礎から臨床への一方通行ではなく,逆にBedsideからBenchへ,すなわち患者や病気を通して発見される臨床の知見が,免疫学や細胞分子生物学における基礎的知識の発展に貢献することが決して少なくない。

 このような現状において,医学のどの分野においても今や免疫学の知識は必須であるにもかかわらず,免疫学や免疫疾患は複雑で難解というイメージがあり,敬遠されたり食わず嫌いであったりすることも多い。この特集号はそのようなイメージを払底するための入門書として企画された。まず,「免疫系のしくみとネットワーク」では免疫疾患を理解するために必要な最低限の免疫学の知識を,「免疫疾患はなぜ起こるか」では自己免疫疾患とアレルギーの発症メカニズムをできる限りわかりやすく解説していただいた。「知っておきたい免疫疾患のトピックス」では,個々の自己免疫疾患やアレルギー疾患の病態・診断・治療に関する最新の話題とともに,最近の薬物治療の進歩についても総論的に解説いただいた。「臓器・細胞移植の進歩」では生体および死体臓器移植,造血幹細胞移植などの移植医療における最近の話題を取り上げた。また,「基礎免疫学と臨床免疫学のクロストーク」と題した座談会では,基礎免疫学の研究者と臨床免疫学領域の臨床医による免疫学上の発見と応用についてのきわめて興味深い話が展開されており,ぜひとも免疫学に興味を持つ若い医師に一読していただきたい。

 免疫学の知識は基礎も臨床も含めてきわめて広く深い範囲に及び,この特集号で取り上げた内容のみでは決してすべてを語り尽くすことはできない。日常診療において免疫疾患にまず興味を持っていただき,より詳しい知識と情報の取得へ向かうための掛け橋として本特集号が役立つことができれれば,編集者として幸甚である。