今月の主題

糖尿病の臨床 -基礎知識を実践に生かす

野田光彦(国立国際医療センター内分泌代謝科・臨床検査部)


 年頭の号である本号の特集に鑑み,徒然に所感を記す。

 世はEBM(evidence‐based medicine)の「はやり」の時期は過ぎ,いわば「EBMはあたりまえ」の時代に入ってきた。今後はそのEBMを実践するための,EBMを乗せるべき土台としての臨床知識が,EBMの正確な理解とともに問われるようになるであろう。

 去った2005年は世を挙げてメタボリックシンドローム一色の感があったが,米国の国民栄養調査であるSecond National Health and Nutrition Examination Survey(NHANESII;1976~80年に実施)による最近の論文(Circulation 110:1245-1250, 2004)では,メタボリックシンドロームのない糖尿病に比べ,それを伴う糖尿病は却って死亡や心血管病死のリスクが少ないとされており(図),逆説的であるがメタボリックシンドロームのない糖尿病より注意を要するとも考えられよう。2型糖尿病がヒトであるとすれば現代日本のメタボリックシンドロームは,さしずめH. G. ウェルズの「モロー博士の島」に登場するcreatureのようなものであろうか。

 「medicina」をはじめ各医学出版社の医学雑誌が年に一度近く糖尿病の特集を組み,糖尿病に関する書物も数多あるなかで,本書を手にお取りくださった読者諸賢に深謝申し上げます。また,執筆者の諸先生方にはご多忙のところ,ご自身の貴重な時間をお割きになって執筆に携わってくださったこと,心より御礼申しあげます。