今月の主題

内科医が知っておくべきがん治療


渡辺 亨(浜松オンコロジーセンター)


 今までは,一般内科診療におけるがん患者との接点は,どちらかというと,治療に関するよりも診断に関することのほうが多かったと思う。しかし,厚生労働省が推進する包括医療導入や入院期間短縮の結果として,今後は,がん患者も在宅で療養する機会が多くなる。そのため,在宅期間中のがん患者の診療を支援するためには,従来にもまして,病診連携が重要になり,一般内科診療に従事する医師も,がん治療にコミットする機会がさらに増えることになるだろう。

 本特集では,がん医療の基本として,増加の一途を辿るがん罹患者数を抑制するには,不可欠な「がん予防」に関して,食生活を取り上げた。また,一般大衆の間では,「がん家系」という言葉が誤用され,医療従事者でも,必ずしも正しく認識されていない「がんと遺伝」の問題も取り上げた。また,がん医療は,情報の非対称が,しばしば指摘される。十分な情報が患者,家族側に提供されないため,医療従事者との間に,情報量において大きな格差が生じている。このためには,がん告知,インフォームドコンセントなどにかかわる,情報提供の知識と技術が大切である。また,情報処理という観点からEBMの実践についても,がんを取り巻く諸問題としてまとめた。

 抗がん剤治療を受けている患者は,悪心・嘔吐,好中球減少に伴う感染症,下痢,など,さまざまな副作用症状を発症する。最近では,固形がんに対する抗がん剤治療も,外来で行われることが当たり前になってきた。そのような患者が,診療所を受診した場合,制吐剤,抗生物質の処方や,補液,場合によってはG-CSFの投与などが必要となる。その際,どんながんに,どんな抗がん剤が使われるのか,そして,それぞれの抗がん剤で,特徴的な副作用はなにか,ということを,一般内科医もある程度心得ておく必要があるだろう。また,放射線治療,外科手術,病理診断,TNM分類などについても,一般内科医でも,常識として心得ておくべきポイントをまとめてある。

 抗がん剤治療を中心としたがんの内科治療を適切にマネージできる腫瘍内科専門医の人手不足問題は,社会問題にすらなっている。確かに,わが国の内科学教科書においても「腫瘍医学」が,独立したチャプターとして扱われていない現状を見ても,内科における腫瘍医学教育は卒前のみならず卒後も,不十分と言わざるを得ない。内科側の担い手が少ないため,消化器がん,乳がんなどの患者の抗がん剤治療は,外科医が担当しているのが現状である。しかし,がん患者の病態生理,がんの生物学,薬理学など修得した内科医こそが,この役回りを担うべきであろう。この特集がきっかけとなり,腫瘍内科を志す若き医師が多数出現することを大いに期待するものである。