今月の主題内科emergency-爆弾を踏まない!林 寛之(福井県立病院救命救急センター)
日本の時間外救急を支えているのは,決して救急医(だけ)ではない。多くの救急が一次二次であるように,多くの救急患者を診ているのは,一次二次救急を支えている開業医,当直の各科ドクターや研修医たちである。彼ら彼女らが日常業務を終えて,眠い目をこすりながら,トイレに行きたいのもお腹がすいているのも我慢して,次の日の勤務はどうなるのかふっと心配しつつも,夜中にやってくる患者を,嫌な顔ひとつせず(嫌な顔をしている人もいるけど……)診察しているからこそ,日本の多くの救急患者が救われているというのは過言ではない。時間外救急での多くの先輩医師たちの武勇伝はさることながら,失敗談も枚挙にいとまがない。それらの多くは,大きな事故には至っていないものの,実はハッとしたりヒヤリとしたり,同じ失敗を繰り返してきているに過ぎない。
誰が見ても明らかな重症患者は三次救命救急センターの医師たちや各病院の重症専門の名医に任せればいいが,歩いてきた患者のなかには,実は重症患者であったりする場合があり,これらの患者を重症化させないうちに見つけ出して治療開始できるのが本当の達人なのである。常にシマウマ探しをするのでは能がない。もちろん,頻度が高いありふれた疾患を考えつつ,一方では見逃すと恐い稀な疾患もひっかけられるように気を張っておくことが大事だ。先人たちのミスから多くのことが学べる。今回はありがちで,でも見逃してはいけない爆弾を,追体験していただけるように,内科救急を企画した。何をすると危険か,何をしないと危険か,“Do no harm, Do know harm”を常にありふれた主訴の患者でも考えながらアプローチできるようになりたい。「人の不幸は蜜の味」などと酔狂なことを言って読んでいただいてもかまわないが,「人のふり見て我がふり直せ」と,襟を正して,先輩医師たちの貴重な失敗談から多くのことを吸収していただきたい。症例シナリオはあくまで教育的になるように修飾してあり,すべてが実例とは限らないことを断っておく。さぁ,トイレに行きたくて,腹が減って目が回りそうでも,「日本の時間外救急は私が支えているのだ!」と心のなかで叫んで頑張ってほしい。おっと,本当にお漏らししてしまってはいけないよ。床をよごすと看護師さんにまた怒られちゃうから。
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