今月の主題Digital時代の脳神経画像診断寺山 靖夫(岩手医科大学神経内科) 今や,世のなかはdigital時代といわれて久しい。 デジタルカメラはこれまで不可能といわれた銀盤写真のレベルに達し,デジタルビデオが常識になった。医療の分野でも湿式のX線写真は陰をひそめ,あらゆるものがデジタル情報として保存されるようになった。コンピュータの性能向上と相まって画像処理技術は格段の進歩を遂げ,以前なら数十分かかった脳血流測定検査がほんの数秒で画像化されるようになった。また,データの保存媒体やパソコンの性能向上と画像編集・閲覧・解析ソフトウェアの進化により,院内または遠隔地の診察室にいながらにして,何の予備知識なしで画像解析が自由に行えるようになった。 しかし,画像処理のアルゴリズムの複雑化はわれわれが容易に画像処理プログラムに接し理解することを困難にし,ブラックボックス化が進んだ。測定理論,画像処理理論を理解することなしに安易に得られた結果のみを議論する人々が増えた。また,digitalであるがゆえに画像データを圧縮して手軽に移動させたり,解析ソフトを介して自由に画像を修飾することができるようになり,セキュリティの問題やmanipulation(ねつ造)の危険性が増したことも事実である。医の倫理として,画像を扱う研究者のモラルが問われる時代に入った。 医療の効率化と経済化を目的として,さまざまな試みが行われている。DPC(diagnosis procedure combination)はその中心的な試みであり,診療報酬が従来の出来高払いから包括的診療報酬制度へと転換されつつある。医療情報の標準化・透明化,病院管理・病院評価などのマネジメントには役立つであろうこの制度も,救急医療や急性期の診療においては,必ずしも有効とはいえないという意見もある。特に画像診断の分野においては,救命のために必要な検査や手技が効率化の名の下に省略され,その結果,患者のQOL(quality of life)や生命予後にまで影響を及ぼしかねないという意見である。現代の医療が抱えるもう一つのモラルハザードである。 さて,本特集ではまず,digital時代における画像診断システムと診断機器の進歩をその専門家によって解説していただくと同時に,digital化がもたらすさまざまな問題点を浮き彫りにする。そして後半では,digital時代の内科医として知っておくべき基礎的な画像診断法とそれらの進化を,そして日常遭遇する神経内科的疾患に対してこれらの診断機器のどれを,どのように,どこまで実際の診療に利用していくかについて,それぞれの専門家が解説する。 進化の早い画像診断分野において,本特集がいつまでその新鮮さを保ち続けられるかは不明だが,画像診断の基礎を理解し,その正しい進化の方向性を見きわめる一助となれば幸いである。 |