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●しりあす・とーく

第13回テーマ

初期研修から後期研修へ
-医師研修の「はざま」を語る(前編)

出席者(発言順)
陳若富〈司会〉
 (国立病院機構大阪医療センター循環器科医長,
  国立病院機構近畿ブロック事務所医療課長)
岩田健太郎
 (亀田総合病院総合診療感染症科部長)
吉津みさき
 (河北総合病院臨床研修アドバイザー)


■過渡期にある医師研修の問題点

 新しい臨床研修制度が始まり,その修了生が来年から後期研修に出るということで,いま,後期研修が非常に注目を集めています。本日は,先進的な取り組みをされている研修施設の気鋭の先生方にお集まりいただき,過渡期にある日本における医師研修の問題点を考えてみたいと思います。まず,自己紹介を兼ねて現在どのようなことに取り組んでいらっしゃるのか,各先生にお話いただきたいと思います。

 初めに私自身についてですが,現在,国立病院機構大阪医療センターの循環器科の医長をしています。同施設には,1987年から勤務していますので,今年で19年目になります。実際に,初期臨床研修制度がスタートするときに,マッチングのための試験問題を作成したり,面接をしたりというところからかかわってきています。

 今年の4月から国立病院機構の近畿ブロック事務所という,近畿にある20の国立病院を管理する事務所の医療課長職も併任するようになり,今度は後期臨床研修制度の立ち上げを担当するようになりました。ですから,新しい臨床研修制度のいちばん最初のところからかかわっています。

岩田 亀田総合病院(以下,亀田)で総合診療感染症科の部長をしております。亀田へ着任したのは,2004年のことですが,その前は中国の北京で家庭医をやっていました。国際クリニックといって,日本人を含めた,北京にいる外国人を診るクリニックで1年ほど仕事をしていました。

 その前は,アメリカに5年間いまして,3年間の内科研修と,2年間の感染症フェローシップを終え,内科および感染症の専門医を得ました。さらにその前は,沖縄県立中部病院で初期研修を行いました。

 いまは,初期研修医に対して,基本的で,一般的な病気を診るための総合診療部の回診による教育と,病院全体の感染症の管理,あるいは難しい感染症のマネジメント,教育といったことを中心にやっています。

臨床研修をどうコーディネートするか?

吉津 私は,1994年に筑波大学を卒業しまして,現在勤めている河北総合病院(以下,河北)で初期臨床研修を行いました。初期研修修了後,ちょうど河北総合病院の循環器科の立ち上げの時期だったということもありまして,そこで循環器科の研修を始めました。その後,2001年から初期臨床研修の教育業務に就く機会をいただいて,現在,臨床研修アドバイザーとして,教育システムをつくったり,臨床研修に関するさまざまなコーディネートをしております。同時に,臨床研修カリキュラムや採用のことなどを考えるという立場でもあります。

 2004年度より河北でも本格的に後期臨床研修を開始し,プログラムの作成や研修システムを整えて,研修の一層の充実を考えています。

 すると,いまはこれを専任でされているんですか?

吉津 そうです。

 診療はされているのですか?

吉津 いまは,内科と循環器科の外来を,週に1コマずつやらせていただいています。

 臨床研修アドバイザーというポジションは,ユニークですね。

吉津 そうですね。私がこの仕事に就いたときに,専任職というのは全国でも非常に珍しかったです。当初,先進的な教育で有名だった沖縄中部病院に1週間ぐらい見学に行かせていただきました。研修システムや研修内容など学ぶことが多くて,臨床研修を充実させるためには病院全体で取り組んでいかないければならないのだと感じましたね。時間もかかるのだということも感じました。それから,病院をあげて研修体制を整えていった感じがあります。

■今の研修医は優秀

 岩田先生は,北京から戻られたのは一昨(2004)年ということですが,日本における最近の研修の現場について,ご存じだったのでしょうか?

岩田 私が初期研修を受けたのは,沖縄県立中部病院で,当時の沖縄県立中部病院は,日本のほとんどすべての研修病院とまったく違っていたと思います。

 ある種,異端児扱いされていた病院で研修したわけで,日本のごく一般的な臨床研修現場のことはわかりません。ただ,いままでの研修病院がどうだったのかということは,人づてでは聞いていますし,実際にそこで育ってきた人たちがどういう臨床医になっているのかも見ています。それから類推することはできますが……。

研修医たちの目指すものが変わりつつある

 亀田に来られて,現在の研修医を見て,先生が研修された当時と比べて,何か変わったことはありますか?

岩田 私たちが初期研修をした頃とは比べものにならないくらい,いまの初期研修医は優秀です。特に亀田については,そうだと思います。目指しているものも,私たちの頃とはぜんぜん違います。沖縄県立中央病院は,確かに優秀な人材が集ってくる病院で,当時としてもツワモノぞろいだったのですが,いま思えば,たくさんの疾患が診られて,どんな病気でも治せる医師になるというところばかりにしか目が行っていなかったような気がします。

 つまり,疾患オリエンテッドだったのです。病気をたくさん診て,手技がたくさんできて,患者が治れば,「名医!」というような。私自身,そういう「勘違い」した研修医だったと思います。ですから,医者は病気を治してナンボという感じで,病気の背後の患者背景とか,患者とのコミュニケーションスキルとか,ティーチングスキルとして上級医から下級医への教え方,下級医から上級医へのコミュニケーションの取り方といったものが洗練されていなくて,言いたい放題,やりたいようにやれと……。

ヒューマンな側面を大切に

 自由な感じですか?

岩田 自由といえば聞こえがいいですが,雑駁といったほうがいいかもしれません。いまの亀田の研修は,やはりヒューマンな側面についてもよく考えているし,われわれとしても,そういう研修医を採用しているところがあります。技術だけでなく,知識だけでなく,ヒューマンな側面を大事にしていて,いずれにしても結果からいえば,比べものにならないくらい,いまの初期研修医は優秀だと,教えていても感じています。

■感じる「研修医間の差」

 吉津先生はどうですか? いまの研修医をご覧になって。

吉津 初期臨床研修というのは,河北も昔からやっていて,私もそれを受けたわけですが,一般病院ですから,今の岩田先生のお話と同じようにいろいろな疾患を診ること,手技的なものもすべてを最初から研修していくというのが基本だったと思います。

 それはいまもある程度根底にありますが,もともと,われわれの病院自体が,疾患だけをメインにするというよりは,もう少し人間的な部分とか社会的な部分とかを見ながら医療を提供するというところがあって,そういった考えの先生が多かったですね。なので,自然に疾患以外の社会的背景を視野に入れて診療することを学んだ気がします。また,昔からチーム医療を大切にした病院だったので,私もチームの一員として皆に育てられたという感じがあります。

研修医のストレスも増えている

吉津 ただ,いまの研修医の立場は昔と違って,いろいろと責任を負わされる部分が大きかったり,患者さんからも社会からもさまざまな視線で見られているので,ストレスフルな部分も多いのではないかと思います。

 ただし,私が研修をした頃より目的をしっかりもって研修に対して強い意欲をもっている人が多いと思います。一方,そうでない人もいて,それがはっきりしてきているような印象を受けます。

 積極的な人と,そうでない人の差がはっきりしてきたということですか?

吉津  「そうでない人」というよりは,まだ模索している段階にあるというような印象です。あまりにもたくさんのやるべきことがあるので,すべてをやりこなせる人は,自分の目標を早くから決めてそれに向かっていけますが,1つずつ段階を踏まないといけない人は,悩みながらやっているという感じです。初期研修は少しずつ成長していくという時期なのですから,そこに差があってもいいと思っています。その差があるおかげで,仲間内で刺激しあえるところもあると思います。

■新臨床研修制度で研修医は真面目になった?

流れに乗ろうとする研修医たち

 特に,この新臨床研修制度のスタートから大きく変わった点は,何か感じますか?

吉津 流れに乗ろうとしているように思います。道ができてないようで,ある程度,周りに形をつくられているので,昔は異端児といわれたようなタイプは少なくなってしまっているのではないかと……。

 均質化してきた感じですか?

吉津 そうですね。卒後2年は目標がきまっているということで,多くの研修医はその目標に向かって動いているように感じられます。この数年で研修医向けの本やインターネットのサイトがいろいろでてきて,情報がすぐ手に入るせいもあるかもしれません。

 うちの病院には,もともと臨床研修のローテーション制度はあったのですが,実際には,卒業したらすぐに大学の医局に入局し,そこから派遣されてくる,大学の医局人事で動いてきている人がほとんどでした。中には,フリーで直接応募してきて,採用される人もありましたが,それは非常に少ない数でした。しかし,新臨床研修制度になってからは,入局してから来る人の数はかなり減り,無所属の方がかなり増えました。

 私の印象でも研修医たちは,やはり真面目になりました。マッチングの制度に乗らないといけないから,学生のうちから,病院の見学実習に積極的に来られるようになって,そのままの流れで研修制度がスタートしたところがあるので,私たちのときと比べて,非常に真面目になったと思います。

吉津 それは言えると思います。

■将来的にはマッチングの弊害も

アメリカで強まるマッチングへの批判

岩田 しかし,将来的には問題になってくると思います。いま,アメリカで議論されているのは,医学部のやり方が古いということです。アメリカの医学部の4年制のあり方というのが,非常に時代遅れである,変えなければいけないと言われています。マッチングのためにあっちこっちへインタビュー旅行をするので,最終学年の4年生は就職活動のためにほとんどの時間を費やすことになってしまい,学生の本分である学業は何もしていない。就職活動というか,マーケティング活動ばかりをすることになってしまっているわけです。

 病院実習に行って,1週間か2週間,自分のいいところを見せて売り込むということに,1年間のほとんどを費やして,あとはUSMLE(米国医師国家試験)をパスすることだけを考える。だから,試験勉強とマーケティングだけの1年間になってしまっていて,それは非常によくないというので,米国内では批判的に見られてきているのです。

(つづきは本誌をご覧ください)


陳若富氏
1984年徳島大学医学部医学科卒業。済生会富田林病院内科で研修,国立大阪病院(現大阪医療センター)循環器科レジデントを経て現職。国立病院機構近畿ブロック事務所医療課長として全国最大規模となる国立病院機構の後期臨床研修制度の立ち上げに積極的に関与。NPO法人日中医療技術交流会理事長として,中国との医療交流を実施中。

岩田健太郎氏
1997年島根医科大学卒業。沖縄県立中部病院,セントルークスルーズベルト病院,ベスイスラエル・メディカルセンター,北京インターナショナルSOSクリニックを経て2004年より亀田総合病院。著書に『悪魔の味方-米国医療の現場から』(克誠堂),『抗菌薬の考え方,使い方』(中外医学社),『感染症外来の事件簿』(医学書院,近刊)など。

吉津みさき氏
1994年筑波大学医学専門学群卒業。河北総合病院にて2年間の初期臨床研修ののち,循環器内科に所属。2001年現職に就く。臨床研修委員会副委員長として研修教育全般にかかわり,よりよい研修体制の確立に力を注いでいる。