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●しりあす・とーく

第2回テーマ

どうする? どうなる?後期研修

これからの内科後期研修はどうあるべきか?

出席者(発言順)
本村和久〈司会〉
沖縄県立中部病院地域救命救急センター

川尻宏昭
佐久総合病院総合診療科

飛田拓哉
聖路加国際病院腎臓内科シニアレジデント

川島篤志
市立堺病院総合内科


■内科後期研修の現状

本村 本日は,初期臨床研修の必修化により,関心が高まっている「後期研修」のあり方について,ディスカッションしたいと思います。まず,各先生方から,現在の後期研修の状況と問題点をお話しください。

研修の中身をどうよくするか?

川尻 佐久総合病院では,後期研修の歴史がまだ浅く,始まって4年ぐらいしか経っていません。座談会タイトルに「内科後期研修はどうあるべきか」とありますが,私どもの後期研修では,「内科」というコースと「総合診療科」というコースに分けています。いずれも3年間のコースです。

 「内科」は,基本的に内科の専門医を目指して,最終的に内科のどこかのサブスペシャリティをもとうとする人たちの共通コースで,内科のなかのローテーション主体です。

 総合診療科の後期研修は,ジェネラリストを育てるということで,ベースは総合内科ですが,診療所や中小規模の病院での研修,在宅往診などがプログラムに入っています。

 問題点は,やはり何を,どういう形で研修してもらうかということ,つまり内容です。そこに,まだ定まったものがないように思います。特に総合診療科の場合には,いろいろな志向の人が来ているので,どういうことを一緒にしていったらいいかということが問題としてあるかと思います。

 また,後期研修が終わった後にどうするのかということも,おそらく問題になってくると思っています。まだ卒業生が1人しか出ていなくて,その1人は診療所へ行きましたけれども,今後はどういうふうになっていくのか,その行き先がまだ見えていないことが,問題点といえば問題点です。

本村 内科の専門医というのは,例えば循環器内科とか,消化器内科というイメージですね。

川尻 そうです。内科後期研修コースというのは,基本的には内科の専門医を育てるコースで,内科の中のサブスペシャリティをいくつか回るのと,あと,自分が専門にしたいところへ行くというものです。

本村 総合診療医というと,いわゆる総合内科のGIM(general internal medicine)とファミリープラクティス,イギリスでいうGP(general physician)などのモデルが混沌としているような状況でしょうか?

川尻 混沌とさせています。あえて,分けないようにしてます(笑)。

本村 「内科」のコースは比較的専門家志向ということですね。

川尻 まだ卒業生が出ていませんが,基本的には内科をローテーションしているなかで,自分で,循環器をやりたいなと思ったら,例えば3年間の後期研修のうちの最後の1年は循環器をするというように,本人の志向が出てきたところで行く先を決めるという形です。一方,総合診療科コースの場合は,病院の中で入院患者さんを診たいという人もいるし,初めからファミリープラクティスをやりたいという人もいますし,どちらかよくわからないけど,スペシャルじゃなくてジェネラルをやりたいという人も来ています。

 私自身は,あまり問題だとは捉えていないのだけれども,まわりから見ると,何をやるところなのかと……。ちょっとそれは,研修とはまた別で,総合診療そのものが何なのかという話になってしまいます。

初期研修後,一定期間内科ローテートを必修に

本村 飛田先生,いかがでしょうか。

飛田 聖路加では,基本的に現在考えられているのは,内科の各科の専門医コースが中心です。ただ,最近,「総合内科」の設置についても検討がなされているようです。内科専門コースについては,佐久総合病院同様に,手技の修練や,専門医試験に合格するために身につけるべき技能などを修得することがゴールになっていると,私は理解しています。

本村 何年ぐらいのコースですか。

飛田 年数は各自に任されています。これは聖路加独特の仕組みですが,初期研修の義務化に伴い,内科系の初期研修プログラムは4年間となっています。すなわち,厚労省が定めた2年間の初期研修では,内科の研修としては不十分なので,その上にさらに2年間の内科ローテート研修を行わないと,内科系初期研修プログラムを修了したことにはならない,としているのです。そのうえに,さらに5年目(一部4年目に入ってくる可能性あり)からの後期研修プログラムがあるわけです。

本村 問題点を1つ挙げるとしたら?

飛田 やはり,専門医コースとしてスタートしてから,まだ歴史が浅いので,そこで身につけるべき技能などが確立されていないというところに不安を覚えます。それは,ほかのどこの施設とも共通した問題かもしれませんが,初期研修のときがあまりにも確固としていたので,そこから急に,自分で何をしてもいいよと言われて,不安になるときがありました。うまく利用すれば,おもしろい研修になると思うのですが。

「内科の基礎固め」としての後期研修

本村 川島先生いかがですか。

川島 市立堺病院(以下堺病院)では,2005年度から後期研修を始めますが,厚労省が定めた2年間の初期研修のあとに,3年間の後期研修を考えています。そのうちの1年半が基本的にローテートで,そのあとの1年半を自分の好きなように割り振るということになります。当然,マンパワーとしても期待しているので,全部の希望にそえずに調節が必要かもしれませんが,初期2年間を終わったあとの3年間をしっかりやるということです。

 正直な話,義務化された初期研修の2年間では内科を十分に勉強できないので,後期研修で内科の土台を作り直す必要があると思います。そこで,堺病院での1年半の内科ローテーションのコースで,内科としての基礎を固めたあとで,専門に進む方は専門に進んだらいいのではないかと思っています。

 堺病院の特色は,内科ローテートでも常に皆の顔が見えることです。内科は一つの部門としてあり,専門に分かれても,カンファレンスは常に一緒に行います。ローテートしても,それぞれの成長を追うことができます。常に情報交換もできるし,開催されるさまざまなカンファレンスを通して,腎臓を回ってるときにも呼吸器の勉強ができます。循環器を回っているときにちょっと肺に問題のある患者さんがいたら,呼吸器の専門家に簡単にコンサルテーションができます。

 そうやって,ローテートはしているけれども,内科を総合的に継続的に勉強できる。そこが大きな特徴です。ある程度のローテート期間が設定されていても,1~2カ月単位といった短期間で,“流儀の違う”さまざまな内科の細切れ研修では,せっかく得たものを活かすことができないような気がします。内科医としての土台を固める時期に,内科全体でやっている私たちのカンファレンスやシステムは,教育的効果が大きいと思っています。

■日本における後期研修の問題点

川島 ところで,これはやや大きな話になりますが,日本における後期研修の問題点は,意外と目標が定まっていない人が多いことと,医局制度があるために,自分が希望をもっていても,それ以外の病院に派遣される可能性があることだと思います。

定めにくい目標

川島 例えば,内科ローテート主体の後期研修を終えた後に,大学の消化器の医局から,4年目の医者として,バリバリに内視鏡ができることを期待されているような病院へ派遣されるようなケースです。次の病院のニーズに合った研修はしていないわけです。医局人事で,希望どおりの病院に行ける人もいるが,そうでない人もいる。内視鏡ばかりをやりたくなくても,そこで働かざるを得ないかもしれないし,逆にその医師が内視鏡をバリバリやっていたとしても,ジェネラルに診なければいけない状況に突然置かれることも考えられる。それでは,何を目標に後期研修をやればいいかがわからなくなってしまいます。自分で遠い将来の目標を持てていないことも問題かもしれませんが,医局人事のために目標を定めにくいのも問題かもしれません。

 今回初期研修の制度が決まって,全国的に初期の2年間が終わったら,3年目にはシャッフル(次の研修病院を選ぶ)があって,後期研修3年が終わったら,スタッフとしての採用があるというような流れができれば楽だと思うんです。そしたら自分で目標をもって進路を選ぶのが当たり前になる。「俺は専門病院にしかアプライしない」とか,「自分はぜひ田舎に行きたい」ということが決められるようになったら,また変わってくると思う。そういう方向性がもてたときに,ようやく後期研修は意味があるというか,後期研修も自分で選べる時代になると思うのです。

 せっかく1年間,バリバリ内視鏡をやってきたのに,その後の病院で「うちでは内視鏡は外科がやっているから,やらなくていいです」と言われたらかわいそうですよね。でも,それは自分では選べない。そのへんに大きな問題があるなと思います。

(つづきは本誌をご覧ください)


本村和久氏
1997年,山口大学医学部卒,同年,沖縄県立中部病院プライマリ・ケア医コース研修医。沖縄の離島診療所である伊平屋診療所勤務を経て,沖縄県立中部病院内科後期研修医,沖縄県立宮古病院内科医,2003年より沖縄県立中部病院勤務(総合内科,救急,離島医療支援)。

川尻宏昭氏
1994年徳島大学医学部卒。同年,佐久総合病院初期研修医。2年間のスーパーローテーションおよび2年間の内科研修の後,病院付属の診療所(有床)にて2年間勤務。2001年10月より半年間,名古屋大学総合診療部にて院外研修。現在,総合診療科医長,研修医教育委員会副委員長として,診療と研修医教育に携わっている。

飛田拓哉氏
2001年名古屋大学医学部卒業。同年より聖路加国際病院内科系研修医として勤務し,内科チーフレジデントを経て,2004年より聖路加国際病院腎臓内科シニアレジデントを務める。

川島篤志氏
1997年筑波大学医学専門学群卒業。京都大学医学部附属病院で内科研修のあと,市立舞鶴市民病院にて3年間,内科・救急を研修。2001年より米国Johns Hopkins大学 公衆衛生大学院に入学し,公衆衛生学修士(MPH)取得。2002年秋より,現職。総合内科の臨床,研修医への指導や研修システムの確立,病院内での生涯教育にも興味を持ち,携わっている。