HOME雑 誌medicina連載一覧48巻13号(2011年12月号) 連載●今日の処方と明日の医学
目次詳細・ご注文はこちら  電子ジャーナルはこちら
●今日の処方と明日の医学

第19回

【日本の製薬医学】の展望

西馬信一(日本イーライリリー株式会社)
監修 日本製薬医学会


 一般財団法人日本製薬医学会の監修によって,「今日の処方と明日の医学」と題して2010年6月号より連載させていただきました.この連載では,医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをご紹介することを目的として,開発や安全対策のほかにも,臨床研究,倫理,薬事などのさまざまな話題を採り上げてきました.また製薬企業,アカデミア,規制当局の第一線で活躍している方々に執筆していただきました.

 今回は連載の総括として,今後の日本の製薬医学の展望について述べます.

諸外国で体系化される製薬医学教育

 現在,医薬品の開発・安全対策は変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.

 おさらいになりますが,製薬医学(Pharmaceutical Medicine)とは,有効で安全な医薬品の開発と使用を医学的な立場から啓発推進するものであり,欧州では1970年代からの本格的な医師の製薬産業への進出にあわせて各国で製薬医学教育の体系化への取り組みが展開されてきました.

 英国では,王立医学院(RCP)の製薬医学分科会によって「製薬医学とは,患者と社会のために役立つ医薬品の発見,開発,評価,承認,監視,医学的なマーケティングなどに関する医学の専門科目である」と定義されています.1975年からは英国製薬医学医師連合会(BrAPP)1)が2年間のパートタイム制の教育を開始して,学位認定試験をRCPが実施する形式で,毎年世界各国から受講者が参加しています.

 国際的な製薬医学医師連合会であるIFAPP2)では,BrAPPをはじめとする各国の教育体系を標準化し,共通のカリキュラムやシラバスを制定しており,現在14のコースが認証を得ています.ブラジルやメキシコなど欧州以外の地域でも製薬医学教育のコース設立に取り組んでおり,最新のコース認証は韓国の延世大学の製薬医学教育に対して授与されています.米国でも製薬医学医師連合会がAPPIを設立し,企業治験や医師主導治験にかかわる医師の教育を推進し,資格認定試験を実施しています.

日本の製薬医学教育をめぐる現状と展望

 一方,日本では日本製薬医学会が「製薬医学専門家の知識,専門性およびスキルの向上を通して製薬医学を推進し,患者と社会のベネフィットのために医薬品へのアクセスと適正使用へと導くことにある」というビジョンとミッションを掲げ,2005年から定例の教育セミナーを開始し,2008年からは学会による認定医試験も開始して会員医師に対する教育研修の充実を図ってきました.しかし,現在のところ海外諸国のような大学を拠点とした教育コースの確立には至っていません.

 その背景には,医薬品の開発と使用において医師が果たすべき役割への認識が産学官のいずれにおいても海外と大きく異なっている現状があります.さらに,医師主導治験や医師主導臨床研究の推進においても,厳しさを増す一方の医療環境の中で医師がどういう役割を果たすべきか,そのためには誰が何を学ぶ必要があるかの議論まで至っていないことも,製薬医学教育の制度化を阻む要因となっていると考えられます.ドラッグ・ラグやデバイス・ラグで世界の後塵を拝するのではなく,イノベーションで世界をリードするためには,その礎となる医師に対する製薬医学教育が必要不可欠です.

 このような状況の中で,日本製薬医学会では2010年より,年に1回の年次大会を開催し,本年5月に第2回の年次大会を開催しました.会合においては本連載の執筆者のように製薬企業,アカデミア,規制当局のメンバーが参集し,主に臨床開発,臨床研究,安全性について活発に議論を致しました.次回の第3回年次大会でも本連載で採り上げた製薬医学にまつわるさまざまな話題について議論をする予定です3)

 本連載はこれで最後になりますが,この連載を通して,少しでも製薬医学に興味をもっていただけたのであれば幸いです.

文献
1)British Association of Pharmaceutical Physisicans
2)IFAPP-INTERNATIONAL FEDERATION OF ASSOCIATIONS OF PHARMACEUTICAL PHYSICIANS
3)一般財団法人日本製薬医学会ホームページ


日本製薬医学会(JAPhMed)とは
製薬企業の勤務医を中心に40年前に発足,現在は一般財団法人として大学・医療機関や行政に勤務する医師も含む約220名余の会員からなり,製薬医学(創薬から臨床開発・市販後のエビデンス構築にわたる医学の専門科)の確立を推進する医学会です.(http://www.japhmed.jp/