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第16回 医療における【質の評価】 [特別寄稿] 池田俊也(国際医療福祉大学薬学部)
医療の質を測る指標よりよい医療を受けたいという願いは万国共通です.近年,諸外国では医療の質を定量的に測定するための指標の開発が進んでいます.「医療の質」を測る視点として,Donabedian博士が示した「ストラクチャー(構造)」,「プロセス(過程)」,「アウトカム(成果)」の3分類がよく用いられます1).ストラクチャーは医療を提供するための体制,プロセスは医療者により実施された診療やケアの内容の評価,アウトカムは診療・ケアにより実際に得られた効果を評価します. 従来の医療の質評価においてはストラクチャーの評価が中心であり,例えば病院機能評価も主にストラクチャーに関して評価が行われていました.しかし,近年,プロセスやアウトカムを数値化して評価するための臨床指標(クリニカルインディケーター)の利用が進んでいます. プロセスの評価は,診療ガイドラインなどで推奨されているエビデンスの確立した診療項目を指標として定め,患者に提供されるべきベストプラクティスと,実際に提供された医療との乖離を測定するのが一般的な方法であり,特にエビデンスの豊富な薬剤に関する指標が数多く利用されています.一方,アウトカムの指標としては,臨床的アウトカムとして院内死亡率,再入院率などのほか,合併症発生率といった避けるべきアウトカム,さらには患者満足度やQOL等の患者報告アウトカム(patient reported outcome:PRO)や,在院日数・コスト等の経済的アウトカムなど,多種多様な指標が用いられています. 臨床指標を一医療機関内で継続的に用いることにより,医療の質の改善状況について経時的に把握することができます.また,複数の医療機関において同一の臨床指標を用いることにより,施設間比較(ベンチマーキング)に利用することもできます.さらに,臨床指標の公開を通じて,患者や保険者等による医療機関の選択・選別などの参考とするケースも報告されています. 医療費支払いへの臨床指標の利用海外では,臨床指標を医療機関や医師に対する医療費の支払いに反映させる動きも活発化しています.これはpay for performance(P4P;質に応じた医療費支払い)と呼ばれ,質の高い診療を行った場合には保険者が医師や病院に対して高い診療報酬を与えたりボーナスを与えたりして,医療の質を高めようとする経済的動機付けの方法を指します. 大規模な導入例としては,米国の高齢者保険(メディケア)で2003年より導入されたHQIDプロジェクト(Hospital Quality Incentive Demonstration project)があります2).対象は急性心筋梗塞,心臓バイパス手術,心不全,市中肺炎,股関節・膝関節置換術の5治療領域であり,各領域ごとに臨床指標が設定され,上位の成績を収めた医療機関では診療報酬が増額されます.例えば急性心筋梗塞については表1に示す9指標が設定されていますが,この大半は薬剤使用に関するものとなっています.
本プロジェクトの導入により,急性心筋梗塞患者については1,284名の死亡回避をもたらしたとの推計3)をはじめ,診療の質の改善効果が報告されています4). わが国における医療の質評価の動向わが国では医療の質評価や臨床指標の導入は立ち遅れていましたが,2003年度より急性期病院に導入が進んでいるDPCデータを用いることにより,さまざまなプロセス指標について分析できるようになりました5).将来的には,P4Pとして医療機関係数への反映も検討されるかもしれません.また,2010年度より厚生労働省により医療の質の評価・公表等推進事業が実施され,初年度は国立病院機構,日本病院会,全日本病院協会の3団体が具体的な臨床指標の作成を行い,ホームページなどを通じて公表を行っています.さらに,2011年度は恩賜財団済生会,全日本民主医療機関連合会,日本慢性期医療協会の3団体が選定されました. ただし,アウトカム指標(特に死亡率など)は,患者の病態や重症度などによって数値が変動することから,機能の異なる病院の数値を単純に比較できない点に注意する必要があります.アウトカム指標を用いた質評価のためには,信頼性の高いリスク調整手法の開発が課題といえるでしょう. 文献
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