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●今日の処方と明日の医学 |
第11回 【適応外使用】を考える 堀 明子(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 安全第2部,新薬審査第5部)
適応外使用とは,すでに国内で承認されている医薬品を,承認内容の範囲外,すなわち添付文書に記載されている効能・効果,用法・用量の範囲外で使用することです. 適応外使用は悪なのか適応外使用には,通常の治療行為として使用すべきでない研究的なものから,広く国内外でコンセンサスが得られていても使用方法としては国内で承認されていないものまで,さまざまなものが含まれます. 研究的な医療行為は,臨床試験として実施し,事前に倫理審査委員会等に諮られる必要があります.また,医学的・倫理的に不適切な使用は,当然避けねばなりません. その点,承認されている効能・効果,用法・用量は,すでに一定の安全性と有効性が確認された使用方法ですが,医療は日進月歩です.例えば現在のがん化学療法では,複数の抗がん剤を併用することが多く,最善の治療方法は次々と更新されるため,医学的見地から最善の治療を実施するには適応外使用せざるを得ません.また,小児領域,稀少疾病では,適応外使用なしに医療が成立しないといっても過言ではありません.しかし,現実には,「適応外」の場合に医療機関での使用が妨げられ,「ドラッグラグ」となっている事態があります(本稿では,医療訴訟での解釈には言及しません). 今,国民から,医療従事者や行政に対して求められているのは,不適切な適応外使用を回避すると同時に,適切な適応外使用が妨げられる事態を回避することです. 適応外使用と「ドラッグラグ」国の取り組みとして,個別の適応外薬を取り上げ,積極的に承認を促す仕組みはすでに行われています.1999年には所謂公知申請の仕組みができ1),その医薬品の有効性や安全性が公的に知られていると判断できる場合(公知)には,臨床試験の一部もしくは全部を行わずに,論文等を基に承認可能となっています. 続けて,「抗がん剤併用療法に関する検討会(2004年1月~2005年2月)」や「小児薬物療法検討会議(2006年3月~2009年7月)」が行われましたが,適応外使用におけるドラッグラグは解消しない現実があり,現在は「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議(2010年2月~)」が行われています. 検討会議の詳細は,関連資料に譲りますが2),社会的注目は高く,患者さんが待ち望んだ適応が承認されることは成果と言えるでしょう.しかし,保険上の問題を解決しない限り,根本的解決にならないという意見もあります. 適応外使用と保険給付日本では,保険給付の対象は,薬事承認を有する内容とほぼ同一であることが特徴です.一方,実は日本の保険制度では,必要な治療をするために適応外使用をせざるを得ない場合が考慮されており,旧厚生省の昭和55年通知3)以来,薬理作用に基づいて処方した適応外使用は,医師の裁量権の範囲であるとして,保険診療を認めてきたことも事実です. ところが,適応外薬におけるドラッグラグの問題が大きくなってきたことで,昭和55年通知の限界が広く指摘されはじめています.具体的には,(1)対象が再審査期間を終了した医薬品の適応外使用に限られている,(2)保険適用の可否は,審査支払い機関の審査委員会において,個々の症例ごとに個別に判断されている,(3)都道府県間で取り扱いに差異がある,(4)対象となる基準が明確でないといった内容です4~6). 不適切な治療に保険給付を認めることは避けねばなりませんが,医学的見地から最善の治療を実施するには適応外使用せざるを得ない現在,日本でも,海外同様に薬事承認と保険適応を分離し,エビデンスレベルの高い臨床試験で効果が示された場合で,例えば学会等が認めた場合に,承認がなくとも保険で認めていく仕組みが必要との意見も認められます.より良い制度を目指し,さまざまな工夫を行う必要があるでしょう. 適応外使用と副作用適応外使用における安全性の問題を忘れてはなりません.医師が自分の担当する患者において遭遇する副作用には限界があります.また,医薬品と関係がないと判断した事象でも,集団で見ると,実は医薬品の副作用である場合があります.したがって適応外使用を行う場合のリスクマネジメントは非常に重要です. 適応外使用により,想定範囲外の副作用が出る可能性はあることを忘れてはならず,より良い安全性確保の方法や,副作用のリスクを社会全体でどう受け止めるかという議論を,さまざまな立場で続けることが必要です. 本稿は著者の個人的見解であり,所属する組織の見解ではありません. 文献
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