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第5回 【副作用報告】の必要性 佐藤淳子(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
副作用・感染症報告制度副作用・感染症報告制度は薬事法に基づく制度であり,従前は,法律上は製薬企業に対してのみに求められていたが,2002(平成14)年の法律改正に伴い,医師,歯科医師,薬剤師等の医療従事者についても,厚生労働省に報告することが法制化されるに至っている1). この制度は,医療機関で認められた医薬品等による副作用,感染症,不具合等の情報を適正使用に収集し,それらを基に,速やかな安全対策を行うことを目的としている. 副作用・感染症報告制度の活用状況報告された情報については,個別症例評価されるとともに,医薬品医療機器総合機構(PMDA)のデータベースに蓄積し,個々の医薬品における副作用の集積状況という目で評価され,添付文書への追記などを検討している.しかしながら,実際,この作業にあたってみると,発現した事象が,(1)疾患自体の自然経過によるものであるのか,(2)疾患の自然経過でも起こり得る事象であったとしても,医薬品がその発現を早めたりしていないか,(3)複数の医薬品が同時期に投与されている場合においては,どの医薬品が原因となっているのかなど,因果関係については,評価困難な場合も多い. また,抗がん剤のように,特定の医薬品との併用で使用されるような医薬品については,併用されている医薬品のいずれが原因であるかについては特定が困難である.このような場合においては,現状では,「本剤との因果関係は不明であるが,本剤使用時に間質性肺炎が報告されている」といったような形で情報提供をしている状況であるが,不確かな情報を添付文書に書き加えていくことにより,その医薬品を使用する上で把握が必須である情報を把握し難くするようなことにもつながりかねない.このような状況を打破すべく,PMDAではデータマイニングなど,新たな解析方法を導入し,複数医薬品併用下における原因医薬品の特定などについて新たな試みに取り組んでいるところである. 適切な情報の重要性PMDAに報告された副作用症例を精査していると,アナフィラキシーショックとして報告されているものの,経過からはショック状態であったことは読み取れず,経口抗アレルギー薬で改善しているような報告がある.このような事例に遭遇した際,経過の記載は省略されているがショック状態が確認されているのか,それとも,経過欄に記載されていることが事実のすべてであり,本来であれば薬疹などの事象名で報告されるべき症例であったのか判断に難渋する.また,ときに,咽頭浮腫,喉頭浮腫,血圧低下,意識消失……などという副作用名が羅列されているような報告もあるが,「アナフィラキシーショック」と報告すれば済んだ症例ではないのかと感じることもある.われわれは実際に症例を目の当たりにしていないため,報告者にとっては,何らかの要因があり,アナフィラキシーショックと診断するには適切ではないと判断したのかもしれない.どんなに優れた解析方法を開発しても,解析するデータが適切に収集されていなければ適切な解析結果は得られない.適切な情報を収集するためには,われわれが副作用報告をどのように活用しているかを周知させていくことが重要である. 明日の,そして,日本,世界のために副作用・感染症報告をした経験のある医師のなかには,何度も追加情報の提供を求められ,その対応に多くの時間を費やした割には,どう活用されたのかが全くわからないという印象をもっている方も多いことであろう.確かに,副作用報告された内容が,即,副作用発現した症例に生かせるような事例はほとんどない.しかしながら,それらの情報を国内・海外と積み重ねることにより,その医薬品による副作用のリスク要因が特定できたような事例も存在する.イメージが湧きにくいこととは思うが,適切に副作用報告いただくことは,明日の自らが診療にあたる患者のみならず,日本中の患者に,そして世界の患者により安全な治療環境をもたらすことにつながっていると言っても過言ではない.われわれ行政側としても,より報告しやすい体制の整備や,より適切かつ効率的な解析方法の開発等に努めたいと考えている. おわりに残念なことに現状において副作用のない医薬品はない.医薬品の承認審査においては,危険か安全かといった評価を行っているわけではなく,おのおのの医薬品において発現が認められている副作用のリスクを上回るベネフィットが確認されていることを確認している.これまでに優れた効果が確認されていたにもかかわらず,安全性の問題からその使命を終えていった医薬品も存在している.これらのなかには,その医薬品の副作用について十分に理解し,副作用をマネジメントできていれば,いまだ臨床的に活用できていた医薬品もあるかもしれない.製薬企業から提供される情報は有効性に偏りがちであるが,その医薬品の副作用を正確に把握し,それらをマネジメントしていける情報を医療現場に提供すべく,われわれも努力を続けていきたい. 文献
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