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●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療

第15回最終回 テーマ

主訴別の患者の診かた(10)
筋力低下を訴える患者の診かた

岩崎 靖小山田記念温泉病院 神経内科


「力が入らない」と訴えて神経内科の外来を受診する患者,他科からの紹介患者は多い.筋力低下があると中枢神経疾患が疑われる傾向があるが,筋力低下をきたす疾患は末梢神経疾患,筋疾患から炎症性疾患,自己免疫性疾患,廃用症候群など多岐にわたる.

連載の最終回として,今回は主として筋力低下(運動麻痺)の診かたについて,病態の評価法,神経学的診察による病変部位の診断,代表的疾患の鑑別法のコツを述べてみたい.


■筋力低下と運動麻痺

「筋力低下(muscle weakness)」と「運動麻痺(motor paralysis)」が混同して用いられる場合があるが,厳密には異なった病態を指す.運動中枢から筋線維までのどこかに障害があり,随意的な運動ができない状態が運動麻痺である.今回の解説内容は主に運動麻痺の鑑別についてであり,筋力低下には廃用性筋萎縮など病変のない場合,加齢や運動不足,疲労など生理的な場合が含まれる.

運動麻痺の病変部位を鑑別するためには,まず問診が重要であり,続いて筋力低下の程度と分布,筋萎縮や線維束性収縮の有無,感覚障害の有無,腱反射,病的反射の有無などを診察する必要がある.

■運動麻痺の分類

障害部位による分類

運動麻痺は障害部位により,上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害に分類される.

上位運動ニューロン障害による麻痺は大脳皮質から脳神経核,あるいは脊髄前角に至る中枢経路に障害があり,中枢性麻痺(または核上性麻痺)とも呼ばれる.脳梗塞や脳腫瘍が代表的である.

下位運動ニューロン障害による麻痺は脳神経核や脊髄前角細胞より末梢部で筋に至るまでの経路の障害で生じ,末梢性麻痺(または核下性麻痺)と呼ばれる.代表的なものはギラン・バレー(Guillain-Barré)症候群や糖尿病性神経障害などである.末梢性麻痺には神経接合部異常による麻痺(重症筋無力症など)と,筋原性の麻痺(多発筋炎など)も含まれる.

麻痺の型による分類

単麻痺(Monoplegia)
右上肢,左下肢など一肢のみの麻痺で,下位運動ニューロン障害(腕神経叢や腰神経叢の病変)で生じることが多い.上位運動ニューロン障害でも生じることがあり,大脳皮質運動野の局所病変で上肢の単麻痺を呈したり,前大脳動脈の梗塞や,胸・腰髄の一側性病変で下肢の単麻痺を呈したりする.

片麻痺(Hemiplegia)
一側上下肢が麻痺している場合で,臨床的には最も多く経験する.ほとんどが脳の病変による上位運動ニューロン障害で,多くが血管障害である.一側の下肢に力が入らないなどの単麻痺様の訴えであっても診察すると片麻痺である場合も多いので注意が必要である.中脳より上位の病変では顔面の麻痺も伴う.

(つづきは本誌をご覧ください)