HOME雑 誌medicina誌面サンプル 46巻1号(2009年1月号) > 連載●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療
●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療

第13回テーマ

主訴別の患者の診かた(8)
意識障害のある患者の診かた

岩崎 靖小山田記念温泉病院 神経内科


 神経内科では意識障害患者の診察を依頼される機会が多いが,原因となる疾患は神経領域に限らず,感染症,内分泌疾患から精神疾患まで多彩である.意識障害の程度は見逃すほどのごく軽度から昏睡に至る状態まで幅広く,判定を誤りやすい意識障害類似の状態もある.死に至る病態など診断よりも救急処置を優先しなければならない場合,早急に適切な診療科へ紹介する必要がある場合,経過観察で良い場合までさまざまであり,病態を的確にとらえて対応する必要がある.

今回から2回に分けて意識障害患者の診療についてポイントを概説したい.今回は意識障害についておよび,一般理学所見の取り方を概説し,神経学的所見の取り方,代表的疾患の鑑別のコツについては次回解説する.


■意識障害とは

意識清明とは「周囲と自己を正しく認識している状態」であり,意識障害(disturbance of consciousness)は「外部からの刺激に対する反応が低下ないし失われた状態」である.重度の意識障害であれば周囲も容易に意識障害の存在を認識できるが,軽度のものや意識変容状態では正常人のように,動き回ったり,話をしたりするために,意識障害が見逃され,異常な行動や言動があるために精神障害や認知症と誤認されることもある.

患者本人が意識障害を自覚することはなく,「頭がぼーっとする」,「物事に集中できない」など本人が訴える場合は意識障害とは呼ばない.同様に睡眠中も意識は失われているが,刺激によって容易に覚醒するので意識障害とは呼ばない.脳血流の一過性低下による短時間の意識消失(失神),認知症患者にみられる見当識障害も意識障害とは区別される.

■意識障害の程度と種類

意識障害は「意識清明度(意識レベル)の低下」と「意識内容の変化」に分けられる.「意識清明度の低下」とは外的な刺激に対する反応の低下で,「昏睡(deep coma)」,「半昏睡(semico-ma)」,「昏迷(stupor)」,「傾眠(somnolence)」に分類される.「昏睡」は四肢の自発運動が全くなく,痛覚刺激にもまったく反応しない状態で,四肢は弛緩している.「半昏睡」は,自発運動はほとんどないが,痛み刺激には反応し,逃避反応(手足を引っ込めて刺激を避けようとする)を示したり,顔をしかめたりする.「昏迷」では自発運動はあり,刺激に対して振り払うなどの動作がみられる.簡単な指示動作(手を握ってください,口を開けてくださいなど)には反応することもある.「傾眠」は刺激をすれば覚醒し,呼びかけに反応する.口頭指示にも従うが,刺激がなくなると眠ってしまう状態である.傾眠状態では錯覚や妄想,せん妄を呈することもある.傾眠と昏迷の中間を「嗜眠(lethargy)」と呼ぶこともある.

「意識内容の変化」にはさまざまな状態があるが,代表的な「せん妄」では軽度ないし中等度の意識レベル低下があり,周囲の刺激に注意を集中することができず,妄想や幻覚が出現したり,睡眠と覚醒のリズムも障害されている.支離滅裂な会話や,妄想に基づく異常行動を呈し,症状は変動しやすい.興奮して暴れたり,奇声を発したりすることもあるが,逆に精神運動が低下する場合もある.アルコール中毒の離脱症状(禁断症状)でみられるせん妄状態は「振戦せん妄」と呼ばれる.脳血管障害や認知症の患者にみられる「夜間せん妄」も代表的なものである.「もうろう状態」は外界の刺激に対して一部の範囲内においてはかろうじて対応できるが,広く適切に周囲を認知して判断,対応する能力が低下した状態である.急性アルコール中毒やてんかん発作後,薬物中毒などでみられる.「錯乱」では意識レベルの低下に加えて錯覚,幻覚,妄想により徘徊,治療行為への抵抗や暴力などの異常行動を呈する.

■意識障害の判定

意識障害の程度や種類の判定は観察者の主観によっても左右されるので,用語のみで表現するよりも具体的に状況(開眼するか,呼名に反応するか,簡単な口頭指示に応ずるか,質問に答えるか,痛み刺激に反応するかなど)を記載するほうがわかりやすく,観察者が変わっても状態の変化を比較しやすい.「大きな声で名前を呼ぶとゆっくりと開眼して,四肢を伸展した」など,具体的に記載するほうが実用的である.また,疼痛刺激などにより可能な限り覚醒させた状態で評価をする必要がある.

(つづきは本誌をご覧ください)