HOME雑 誌medicina誌面サンプル 47巻12号(2010年11月号) > 連載●手を見て気づく内科疾患
●手を見て気づく内科疾患

第23回テーマ

ヒポクラテス爪:喫煙の影響は手にも現れる

松村正巳(金沢大学医学教育研究センター リウマチ・膠原病内科)


患者:50歳,男性
病歴:1年6カ前に,関節炎,顔の紅斑,抗核抗体陽性などから全身性エリテマトーデスと診断され,加療中である.タバコは1日20本を20年間吸っていた.全身性エリテマトーデス診断後は禁煙した.

(写真は本誌をご覧ください)
図1 爪が鳥のくちばし状にカーブしており,爪と爪郭の形成する角度が180°になっている
図2 指の遠位指節間関節より末端が肥大し,ばち指になっている.Lovibond角は180°以上である
身体所見:両手にヒポクラテス爪を認める(図1).爪が先端に向かい鳥のくちばし状にカーブしており,爪と爪郭の形成する角度が180°になっている.胸郭の前後径が大きく,吸気時の肺底部胸郭の動きが小さい.
検査所見:胸部X線写真にて肺気腫を認める.

診断:喫煙によるヒポクラテス爪

 ヒポクラテス爪は,医学の父ヒポクラテスが,膿胸,進行した肺結核の患者で最初に記述したとされています.時計皿爪とも呼称されます.ヒポクラテス爪を側面から観察すると,爪が鳥のくちばし状(parrot' s beak)になっており,爪と爪郭が形成する角度(Lovibond角)が180°になっています.正常は160°前後です.ヒポクラテス爪は慢性閉塞性肺疾患でも認められ,喫煙の影響は手にも現れます.足の爪も同様に変化していることが少なくありません.ヒポクラテス爪のそのほかの鑑別診断には以下のものがあります.

 間質性肺炎,気管支拡張症,化膿性肺疾患,チアノーゼをきたす先天性心疾患,肝硬変,炎症性腸疾患,感染性心内膜炎

 ばち指は遠位指節間関節から末端がさらに肥大し,Lovibond角も180°以上になります(図2:本例は慢性閉塞性肺疾患に肺癌を合併した).

 以下はばち指のパール(Clinical pearl)です.

 「慢性閉塞性肺疾患の患者でばち指が認められたら,胸部CTスキャンを撮りなさい.肺癌の可能性がある」

 If a patient with chronic obstructive pulmonary disease develops finger clubbing, obtain a chest CT scan;the patient may have developed lung cancer.

 ヒポクラテス爪を有する患者の指の末端が肥大してきたら肺癌を疑います.

(画像は本誌をご覧ください)