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●内科医のためのせん妄との付き合い方

第6回最終回 テーマ

特殊な病態ごとのせん妄治療

本田 明(国立病院機構長崎医療センター精神科医長)


 前回までに述べてきた基本的な治療に加えて,せん妄治療は個々の病態により注意点が若干異なることを知っておくと,よりきめ細やかな対応が可能となる.患者により合ったせん妄治療で早期改善を目指す.


■アルコール離脱せん妄の治療

 アルコール依存患者が必ず離脱せん妄を起こすわけではないが,入院した場合,離脱せん妄のリスクが高いことには間違いない.初診の段階ですべての患者にアルコールの問題がないか尋ねるのが望ましい(表1)1)

表1 アルコール依存診断基準(DSM‒IV‒TR,文献1をもとに作成)

以下の3 つ以上を満たす場合

(1)耐性,以下のいずれかによって定義されるもの:
  (a)酩酊または希望の効果を得るために,著しく増大した量のアルコールが必要.
  (b)アルコールの同じ量の持続使用により,効果が著しく減弱.
(2)離脱,以下のいずれかによって定義されるもの:
  (a)アルコールに特徴的な離脱症候群がある.
  (b)離脱症状を軽減したり回避したりするために,アルコールを摂取する.
(3)アルコールをはじめのつもりより大量に,またはより長い期間,しばしば使用する.
(4)アルコール使用を中止,または制限しようとする持続的な欲求または努力の不成功のあること.
(5)アルコールを得るために必要な活動,アルコール使用,または,その作用からの回復などに費やされる時間の大きいこと.
(6)アルコールの使用のために重要な社会的,職業的または娯楽的活動を放棄,または減少させていること.
(7)精神的または身体的問題が,アルコールによって持続的,または反復的に起こり,悪化しているらしいことを知っているにもかかわらず,アルコール使用を続ける.

 日々の臨床では,4項目の頭文字をとったCAGEテスト2)が,アルコール依存のスクリーニングに簡便で実用的である.

CAGEテスト:2項目以上でアルコール依存症の可能性が高い

1) いままで飲酒量を減らさなければいけないと感じたことがありますか(Cut down)
2) いままで周囲の人間があなたの飲酒を非難するので困ったことがありますか(Annoyed by criticism)
3) いままで自分の飲酒について悪いとか申し訳ないと感じたことがありますか(Guilty feeling)
4) いままで迎え酒(朝酒)をしたことがありますか(Eye-opener)

 アルコール離脱せん妄は,せん妄治療のなかで,唯一ベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択薬となる.

予防
アルコール離脱せん妄のリスクが高い患者は予防投与を行う.全く症状がない状態での投与,もしくは振戦,発汗,不穏などの離脱症状が軽度出現した段階での投与を行う.

内服ができる患者の場合
症状により投与量と期間を調整する.

処方例
●セルシン®(ジアゼパム)15 mg 分3
*3日間投与後,6 mg 分3に減量し,4日間投与後に中止

肝障害がある場合
症状により投与量と期間を調整する.

処方例
●ワイパックス®(ロラゼパム)4 mg 分4 
*3日間投与後,2 mg 分4に減量し,4日間投与後に中止

内服ができない患者の場合
肝障害がある場合は半量より開始する.

処方例
●セルシン®(ジアゼパム)注5~10 mgを1日3回ゆっくり静注または筋注
*3日間投与後,5 mgを1日2回ゆっくり静注または筋注し,4日間投与後に中止

アルコール離脱せん妄が出現した場合
断酒(入院)後数日で出現し幻覚,妄想,興奮,振戦,発汗などを伴う.

内服ができる患者の場合
下記いずれか.症状に合わせて量を増減し,症状改善後1週間かけて漸減する.

処方例
●セルシン®(ジアゼパム)30 mg分3+ネルボン®(ニトラゼパム)5~10 mg分1寝る前
●ワイパックス®(ロラゼパム)4 mg分4+エバミール®(ロルメタゼパム)1~2 mg 分1 寝る前(肝障害がある場合)

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1) 高橋三郎・他(訳):DSM‒IV‒TR――精神疾患の分類と診断の手引き,pp. 73‒76,医学書院,2003
2) Ewing JA:Detecting alcholism;The CAGE Questionnalre. JAMA 252;1905‒1907, 1984


本田 明
前・国立病院機構長崎医療センター精神科医長.専門は精神科身体合併症,救急・集中治療領域の精神科リエゾン.日本精神神経学会指導医,日本総合病院精神医学会専門医,精神保健指定医,日本救急医学会救急科専門医,日本ボクシングコミッションドクター,厚生労働省認定臨床研修指導医.編著に『精神科身体合併症マニュアル──精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の診療と管理』(医学書院).