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●東大病院内科研修医セミナー

第11回テーマ

神経性食欲不振症の男性例


Introduction
・低体重の若年男性で鑑別に挙げるべき疾患は?
・さまざまな検査値異常をどのように解釈するか?

症例】 21歳,男性。

主訴】 食事を食べると吐いてしまう。

現病歴】 小学6年生(12歳)時(X‐9年),150cm,50kg(BMI 22.2)であり,家族から少しやせたほうがいいと言われたことをきっかけにダイエットを始めた。中学2年生(14歳)時(X‐7年)には40kg(BMI17.7)となり家族が摂食障害を疑い,近医受診,神経性食欲不振症と診断された。この頃より自己誘発性嘔吐を認めた。中学3年生(15歳)時(X‐6年)よりA病院に通院開始したが体重は減少を続け,肝障害・心嚢液貯留・低血糖による意識消失などで計8回同院に入退院を繰り返していた。その際に施行された治療法は,栄養療法や体重による行動制限などであった。

 新たな治療の場を求めて,X年8月当科受診。初診時160cm,33.2kg(BMI13.0)であった。<30kgで入院との条件を設け,外来治療を開始したが,10月14日体重28.1kg(BMI11.0)まで減少し,検査上もGOT480IU/l,GPT195IU/l,CK12,463IU/lと上昇が認められたため栄養療法目的でX年10月18日当科入院となった。

既往歴】 特記すべきことなし。

身体所見】 車椅子で入院。身長159.6cm体重27.70kg(BMI10.8),意識清明,体温35.0°C血圧78/52mmHg,脈拍59/min,皮膚のturgor低下

一般検査所見
〈血算〉WBC3.8×103/μl,RBC504×104/μl,Hb14.9g/dl,Ht44.6%(MCV88.5fl,MCH29.7pg,MCHC33.5%),Plt17.3×104/μl
〈生化〉 TP5.9g/dlAlb3.9g/dlLDH2,285IU/lGOT858IU/lGPT367IU/l,γ‐GTP21IU/l,ALP118IU/l,T.Bil1.0mg/dl,cCa8.6mg/dl,IP2.5mg/dlBUN23.4mg/dl,Cre0.61mg/dl,Na136mEq/l,K2.8mEq/l,Cl88mEq/l,UA5.7mg/dlAmy281IU/l,p‐Amy55IU/lCK14,903IU/lCK‐MB433IU/lGlu56mg/dl(随時),CRP0.14mg/dl
〈甲状腺ホルモン〉 TSH1.17μIU/ml,fT41.34ng/dlfT32.2pg/ml

画像所見
〈胸部X線〉 CTR(心胸郭比)30.6%滴状心,CPA(肋骨横隔膜角):sharp,肺野:clear
〈腹部X線〉 上行結腸にニボー(+)
〈心電図〉 HR51/min,sinus rhythm,V3~5でST低下QTc455msec

入院後経過
・小学6年生時,BMI22.2とほぼ標準体重であったが,家族よりやせたほうがいいと言われたのをきっかけにダイエットを開始。3年後には標準体重<85%まで減少しており,罹病期間は6年と考えられる。肥満恐怖が強く,理想体重35kg(BMI13.7)と,ボディイメージの障害がみられる。また,発症時より自己誘発性嘔吐があり,神経性食欲不振症(むちゃ食い/排出型)と診断した。
・入院時,著しい低体重・低体温・低血圧・脱水・低血糖・肝酵素上昇・CK上昇・電解質異常が認められ,安静・栄養療法により全身状態の改善を治療方針とした。
・約3週間後体重31.3kgまで回復,各検査値もほぼ正常化し,退院。
・退院後は自宅での安静・3食摂取を心掛けていたが,自己誘発性嘔吐を続けており,退院1週間後の初回外来で体重28.6kg(退院時-2.7kg)まで減少していた。体重<30kgで入院との契約をしていたが,本人は外来での治療を強く希望し,徐々に体重は増加していた。しかし体重≧30kgには達することができず,オペラント条件付け行動療法による体重増加目的でX年12月当科第2回目入院となった。入院時体重31.25kg,行動療法開始1週間後の体重測定にて33.6kgと目標体重(32kg)を達成したため,退院となった。
・今後は外来で31.5kgを切ったら入院との約束をして,徐々に体重を増加していく方針。

Problem List
・やせをきたす器質的疾患を有さない低体重の男性患者。
・さまざまな検査値異常を伴う。

神経性食欲不振症を鑑別に挙げる。

(つづきは本誌をご覧ください)