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●東大病院内科研修医セミナー

第9回テーマ

短期間に皮質下出血を繰り返した
脳アミロイド・アンギオパチーと考えられる75歳女性


Introduction
・頭蓋内出血の原因は何か?
・どのような場合に脳アミロイド・アンギオパチーを疑うか?

■CASE

症例】 75歳,女性。

主訴】 服が上手く着られない,左腕に力が入らない。

現病歴】 2005年5月18日午後3時40分,突然目が見えにくい感じがすることを自覚した。数日経っても改善しないため,近医を受診。5月27日頭部MRIを撮像したところ,右後頭葉出血が認められ当院救急外来受診した。診察上,左側同名半盲を認めたが症状は改善傾向で,また頭部CT上,出血は吸収傾向であったため,外来にて経過観察となった。

 6月7日深夜1時,トイレに行こうとしてガウンを着ようとしたが,左手が思うように動かず,3時間ガウンを着ようと試みたが,結局着られなかった(右手は通るが左手が通らない,左手を先に入れても右手が入らない)。そのとき左手が重い感覚があった。トイレから帰って来るときに,左視野にあった柱に当たったという。当院救急外来受診。頭部CTにて右頭頂葉~前頭葉にかけての再出血を認めたため,当院に入院となった。

既往歴】 68歳時~両眼緑内障,白内障。

家族歴】 父:脳出血,兄・弟:脳血栓。

身体所見】 血圧:126/75mmHg,脈拍:67/分・整,頭頸部:異常なし,胸部:心音正常,呼吸音:異常なし,腹部:平坦・軟,圧痛なし,腸音正常,四肢:浮腫なし

神経学的所見】 意識清明。診察時に常に右を向き,左方を気にしない傾向があった。線分二等分試験で左方の線分を無視する所見を認め(図1),左側同名半盲,左半側空間無視による症状と考えられた。また,着衣失行を認めた。脳神経系では,右眼で白内障,緑内障による視力低下を認めた。運動系では,Barre´徴候で左側が軽度回内,Mingazzini徴候では左側で軽度落下傾向を認め,軽度の左側片麻痺を呈していた。感覚系は左体幹から上肢にかけて表在覚低下,左上肢で深部覚が軽度低下していた。深部腱反射は正常,病的反射,小脳症状は認めなかった。

検査所見】 血算:WBC3,100/μl,Hb11.3g/dl,Ht34.4%,Plt27.3×104/μl,凝固系:PT-INR1.10,aPTT26.0s,生化学:TP 5.3g/dl,Alb3.3g/dl,LDH213IU/l,GOT19IU/l,GPT7IU/l,ALP166IU/l,T.Bil0.7mg/dl,BUN7.9mg/dl,Cre0.69mg/dl,Na142mEq/l,K3.6mEq/l,Cl107mEq/l,TC159mg/dl,TG72mg/dl,UA3.8mg/dl,Glu87mg/dl,HbA1C4.9%,ApoE蛋白phenotype:E3/2。

画像所見】 胸部・腹部X線:異常なし。頭部単純CT:<2005/5/27>右後頭葉に周囲に浮腫を伴う約4cm大の血腫を認める。亜急性期の血腫と考えられる(図2)。<2005/6/7>右前頭葉後部から頭頂葉に新たな皮質下出血あり(図3)。

入院後経過

・神経所見および画像より,脳出血による左側不全片麻痺,感覚障害,左半側空間無視,空間失調と診断し治療を開始した。

・入院後,カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(アドナ®)50mg,トラネキサム酸(トランサミン®)100mg,グリセオール400ml/日を投与した。その後の頭部CTで新たな出血を認めなかった。左側不全片麻痺,感覚障害はほぼ後遺症なく回復したが,左半側空間無視,空間失調は残存した。

・WAIS-R(Wechsler's adult intelligence scale-revised)やWMS-R(Wechsler's memory scale-revised)にて一般的な認知機能や記憶検査を行ったところ,IQ 114と正常であったが,言語性記憶が低下していた。年齢や今回の出血とは無関係と考えられ,アルツハイマー型痴呆の初期など,他の要因による低下を疑った。

Problem List
・出血リスクのない高齢者の繰り返す皮質下出血
・着衣失行,半側空間無視

脳アミロイド・アンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy:CAA)からの脳出血を疑う。

(つづきは本誌をご覧ください)