●東大病院内科研修医セミナー | ||
第8回テーマ
■CASE【症例】 73歳,女性。【主訴】 転倒・倦怠感,頭痛。 【現病歴】 1989年,血算 WBC8,300/μl,RBC807×104/μl,Hb19.8g/dl,Hct64.1%,Plt36.8×104/μl,骨髄穿刺の結果,真性多血症と診断され,ブスルファン内服。1997年,上肢血圧の左右差,CTおよびMRIで左鎖骨下動脈・左椎骨動脈狭窄の所見あり,大動脈炎症候群と診断される。1998年,右下肢の腫脹出現し,静脈造影より静脈血栓症と診断。このときprotein S15.7%,protein C106%,PIC(プラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体)1.1μg/ml,TAT(トロンビン・アンチトロンビンⅢ複合体)10.3ng/ml,抗カルジオリピン抗体(-)。ワルファリン内服開始。2004年10月,狭心症精査のため心臓カテーテル検査施行。この際,PT-INR 1.33とワルファリンコントロール悪化。2004年11月,激しい頭痛,嘔吐の後,意識消失。救急車にて搬送中に痙攣発作あり。当院緊急入院となり,1カ月後,軽度の運動性失語を残すのみとなり退院。退院後,徐々に歩行時の転倒が目立つようになり,倦怠感・頭痛を自覚するようになり,巧緻運動障害も出現。精査加療目的のため,2005年5月,当院入院となる。 【身体所見】 体温37.8度,血圧(右)146/78mmHg,(左)116/76mmHg。意識清明。頸部両側bruit (+)。神経学所見:両側眼球上転障害軽度あり。右顔面運動麻痺軽度あり。Barre´徴候(-)。Mingazzini右下肢動揺(+)。徒手筋力テスト右半身軽度低下(4~5-)。深部腱反射右半身軽度亢進。Romberg徴候(+)。指鼻試験・踵膝試験右やや稚拙 【一般検査所見】 血算:WBC 4,800/μl,RBC 457×104/μl,Hb 14.0g/dl,Hct 43.0%,Plt 41.8×104/μl。生化学:GOT 17U/l,GPT 16U/l,LDH 472U/l,ALP 400U/l,γ-GTP 154U/l,T.Bil 0.5mg/dl,BUN 11.0mg/dl,Cre 0.59mg/dl,CK20U/l,T.Chol 148mg/dl,CRP 2.51mg/dl。凝固:PT 15.9sec,PT-INR 1.79,aPTT 41.0sec,AT-III133%,proteinC 57%,protein S 33.0%。 【画像所見】 胸部CT:右腕頭動脈~椎骨動脈・左椎骨動脈近位部に著しい蛇行あり。左鎖骨下動脈の高度な狭窄は認められない。上行大動脈に軽度の拡張がみられるが,大動脈炎症候群の病勢悪化を疑わせる所見なし。頭部MRI:T2強調画像(図1)で左側頭葉を中心に高信号域を認め側頭葉底面にまで及ぶ。mid line shiftを伴う。拡散強調画像では高信号域認めず。造影を行ったT1強調画像(図2)では左側頭葉前端に造影効果を認める。 【入院後経過】 グリセオール400ml/day点滴により脳浮腫の改善を図りつつ検査を進めた。 CT venography(造影CTの静脈相における撮影):直静脈洞,左横静脈洞~S状静脈洞~内頸静脈に静脈洞血栓を認める。左側頭葉から頭頂葉に静脈性浮腫と考えられる腫脹を伴った低吸収域あり。PET:左側頭葉を中心に頭頂葉にかけ,広範な集積低下域があり,左側頭葉前方部には集積増加域を認める。小脳の集積に右<左の左右差(crossed cerebellar diaschisis)がみられる。脳血管造影:左横静脈洞~S状静脈洞にかけて造影欠損がみられる。明らかな動静脈瘻・腫瘍濃染は認めず。 入院35日目の頭部MRIでは左側頭葉の浮腫が著明に軽減し,神経学的所見もほぼ正常化,頭痛も軽快した。脳静脈洞血栓の治療としてワルファリン用量を増量し,PT-INR 2.53となったため,退院とした。
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