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●東大病院内科研修医セミナー

第3回テーマ

診断するまでに時間を要したHIV感染症の症例

龍野 桂太・奥川 周・塚田 訓久・太田 康男・小池 和彦
(東京大学医学部附属病院感染症内科)


Introduction
・感染症の専門医以外がHIV感染症の治療を行うことはあまりないが,日常診療でHIV感染症患者に遭遇する機会はしばしばある。
・どのような症状・臨床経過の場合にHIV感染症を疑い,HIV抗体検査を行う必要があるか?

■CASE1

症例】 35歳男性。

主訴】 咽頭痛。

現病歴】 2004年4月中旬頃から,38°C以上の発熱,咽頭痛,口腔内潰瘍が出現。近医にて,抗菌薬,NSAID,ステロイド薬など処方されていた。投薬を受けると若干症状の改善を認めたが,投薬中止とともに再増悪。寛解と増悪を繰り返していたため,同年8月6日に東大病院紹介受診。当初はBehçet病などが疑われ精査が行われたが確定診断に至らず,原因不明のまま発症より4カ月間経過した。8月26日,発熱原因について感染症内科にコンサルテーションがあり,繰り返す口腔内アフタやリンパ球数減少が認められるほか,STS(serological test for syphilis;梅毒血清反応)陽性とSTD*1が背景がある点を考慮し,HIV感染を疑い抗体検査を行ったところ,陽性と判明した。

入院後経過】 入院時CD4陽性リンパ球数49/μl,HIVウイルス量1.9×105copies/mlと,高度免疫不全・高ウイルス血症であった。日和見感染症として,CMV(サイトメガロウイルス)腸炎が認められたため,ガンシクロビルの点滴治療を行い,その後,維持療法として経口にてガンシクロビルを継続。その他に明らかな日和見感染症は検出されなかった。カリニ*2肺炎予防のST合剤内服を開始後,ジドブジン・サニルブジン・エファビレンツの3剤によるHAART*3を行った。以後,外来にてHAARTを継続中であり,図1のようにウイルス量減少・CD4陽性リンパ球数改善している。

*1STD:sexually transmitted disease.梅毒・B型肝炎・淋病などの性行為で伝播する感染症のことを指す。
*2カリニ:起炎菌であるPneumocystis cariniiはPneumocystis jiroveciと改められたため,カリニ肺炎もニューモシスチス肺炎と呼ぶほうが正しい。
*3HAART:highly active anti-retroviral therapyの略称。3剤以上の抗レトロウイルス薬を併用すること。

■CASE2

症例】35歳男性。

主訴】嚥下時疼痛,体重減少,下痢。

現病歴】2002年7月頃より口内炎・咽頭痛が出現。上気道炎の診断にて近医で抗菌薬などを処方され,一時症状改善していた。その後,嚥下時疼痛・下痢・体重減少(3カ月で8kg)が認められ,発症より3カ月経過した同年10月に当科紹介受診された。口腔内白苔が著明であり,ステロイドなどの免疫抑制剤使用歴がないにもかかわらず真菌感染症が認められたこと,STS・HBs・HBc抗体陽性というSTDが背景にある点を考慮し,HIV感染症を強く疑い抗体検査を行ったところ陽性と判明した。

入院後経過】 入院時CD4陽性リンパ球数50/μl,HIVウイルス量9.8×104copies/mlと,高度免疫不全・高ウイルス血症にあった。

 食道カンジダを認めたが,そのほかに明らかな日和見感染症は検出されず,口腔・食道カンジダに対してフルコナゾールを内服したところ,速やかに症状が改善した。カリニ肺炎予防のST合剤を内服開始し,その後,ジドブジン・サニルブジン・エファビレンツの3剤によるHAARTを行い,HIVウイルス量とCD4陽性リンパ球数は図2のように改善した。

Problem List
CASE1・2ともに共通していることとして,
・STD(STSやHBVなど)を背景に有している
・有熱期間が3~4ヵ月間と長い
・口腔内所見が続いていた

上記のような症例に遭遇した場合,背景にHIV感染症がないか考慮すること。

(つづきは本誌をご覧ください)