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●聖路加Common Diseaseカンファレンス

第12回[血液内科編]

汎血球減少症から鑑別疾患を考えよう

森 信好・岡田 定(聖路加国際病院・内科)


汎血球減少症の診断  まずここを押さえよう
  1. 日常診療のなかで汎血球減少症に遭遇することは意外に多い.汎血球減少症をキーワードにした鑑別疾患ができるようになろう.
  2. 汎血球減少症をきたす代表的病態には,肝硬変に伴う脾機能亢進症,抗癌剤使用に伴う骨髄抑制,再生不良性貧血,骨髄異形成症候群,巨赤芽球性貧血,重症感染症,SLEがある.

■症例1
 関節痛,紫斑を主訴に来院した38歳男性

指導医 最初の症例は,特に既往症のない38歳男性です.入院10日前から右肩関節後部に紫斑を伴う疼痛が出現し,痛みで夜も寝られないほどでした.自宅近くの整形外科を受診しましたが,原因がわからず湿布薬を処方されていました.7日前から左肘と舌に出血斑が出現したため,今度は内科の医院を受診.血小板減少を指摘されたそうです.同日夜より38.5℃の発熱と左股関節痛,左肩部痛を認めたため,翌日,当院内科外来を受診しました.

 意識レベルは清明,血圧133/71mmHg,脈拍128/分・整,呼吸数24/分,体温37.7℃.四肢の紫斑と左肘外側と舌に出血斑を認めました.

 緊急血液検査の結果を表1に示します.

表1 【症例1】緊急血液検査所見
WBC 800/μl,Hb 9.0g/dl,Plt 1.0万/μl,CRP 7.8mg/dl

指導医 さあ,どのような病態を考えますか.

研修医A 来院時には発熱と頻脈があります.また,汎血球減少とCRP上昇もありますので,重症感染症でしょうか.

研修医B 汎血球減少からアプローチします.骨髄が低形成であれば再生不良性貧血,そうでなければ骨髄異形成症候群(MDS),発作性夜間血色素尿症(PNH),巨赤芽球性貧血などを考えます.また白血病,骨髄線維症や悪性腫瘍の骨髄転移も挙がります.その他,脾腫を伴う肝硬変,敗血症,全身性エリテマトーデス(SLE),血球貪食症候群や薬剤性なども可能性はあると思います.

指導医 ずいぶんたくさんの鑑別疾患が挙がりましたね.この症例では,どのような病態の可能性が高いでしょうか.絞り込んでいきましょう.

研修医A 関節痛と紫斑が認められます.これは関節内の出血を示唆していると考えます. 血小板は1万と低下していますが,血小板減少だけでこのような関節内出血をきたすとは考えにくいので,凝固異常も同時に存在していると思います.そうすると,やはり重症感染症により凝固異常をきたしていると考えます.

研修医B たしかに,重症感染症はありそうです.ただ,病歴を整理すると,まず関節痛が先行しており,その後出血斑が出現し,1週間ほど経過してから発熱を呈しています.ですから,汎血球減少症をきたす何らかの病態があり,そこに感染を合併したと考えるのが妥当ではないでしょうか.この方は38歳と比較的若いので,悪性腫瘍の骨髄転移は考えにくいと思います.MDSも年齢からは否定的で,肝硬変も考えにくい.薬剤性も否定的です. そうすると,何らかの血液疾患かSLEが基盤にあり,そこに感染を伴ったと考えます.

研修医A 関節内出血ですので,凝固異常を伴う血液疾患とすると,播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こしている可能性が高いです.そう考えると,急性前骨髄球性白血病(APL)が一番の鑑別に挙がります.

指導医 関節内出血から凝固異常を疑うのは良いポイントですね.

 では,凝固系の検査(表2)と末梢血の塗抹標本(図1)をみてみましょう.

表2 【症例1】追加の血液検査所見
PT INR 1.23,APTT 40秒,フィブリノゲン385mg/dl,Dダイマー80.0μg/ml

指導医 これらの所見から,どのように考えますか.

(つづきは本誌をご覧ください)