第5回
あなたはこの胃潰瘍をどうしますか?
鈴木祥子(聖路加国際病院内科)
藤谷志野(聖路加国際病院内科 チーフレジデント)
藤田善幸(聖路加国際病院内科 消化器内科)
胃潰瘍の診断 まずここを押さえよう
胃潰瘍をみた場合,胃潰瘍・十二指腸潰瘍歴,内服薬(NSAIDs)をチェックする!
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■症例1
吐血にて来院した58歳男性
指導医:症例1は,20歳台に胃潰瘍にて内服加療歴がある58歳男性です.来院前日より黒色便,その後新鮮血吐血があり,救急車にて受診されました.来院時,意識清明,血圧104mmHg触診,脈拍80/min・整でした.身体所見では,眼瞼結膜に貧血がある以外には異常所見はありませんでした.
この後はどうしますか?
研修医A:上部消化管出血を疑い,緊急内視鏡検査をお願いします.
指導医:そうですね.内視鏡検査では胃体中部後壁に露出血管を伴う潰瘍があり,焼灼止血をしました(図1a,b).流動食から食事を開始し,順調に6日後に退院しました.入院治療はこれで終了になりましたが,このような症例は,今後外来ではどのようにフォローアップしていきますか?

研修医B:PPI(プロトンポンプ阻害薬)投与し,しばらくしたら内視鏡で改善しているか確認をします.
指導医:それは必要ですね.そのほかは,何か意見ありますか?
研修医A:20歳から繰り返していることを考えると,Helicobacter pylori(以下HP)の感染を考えます.
指導医:実際にHP感染を疑った場合にはどんな検査をしますか?
研修医C:尿素呼気試験とか,血液中の抗体検査ですか……?
指導医:大きく分けて,侵襲的方法と非侵襲的方法とに分かれます.侵襲的検査法には,培養法・鏡検法・RUT(迅速ウレアーゼ試験)があり,非侵襲的方法には,抗体測定法・尿素呼気試験などが挙げられます(表1参照).
表1 Helicobacter pylori(HP)検査法
侵襲的検査法:胃内視鏡検査により,胃体部大彎と幽門前庭部大彎2カ所から生検を行う
(1)培養法:HPの薬剤耐性の検討には不可欠
(2)組織鏡検法:同時に病理診断が可能である
(3)RUT(迅速ウレアーゼ試験):HPのウレアーゼ酵素活性により,胃生検組織中の本菌の存在を証明する
非侵襲的検査法
(4)抗体測定法:血中や尿中の抗HP抗体を測定し,感染を診断する
(5)UBT(尿素呼気試験):13C標識尿素を経口投与する方法.感度・特異度ともに高く,除菌後の判定に有用である
(6)便中HP抗原測定法:糞便中のHP抗原を検出する方法 |
この症例も外来のフォローアップの内視鏡検査時(図1c)にHP培養を施行し,HP陽性にて除菌治療施行し,現在胃潰瘍再発なく経過しています.
診断とその根拠
(診断) 再発性胃潰瘍,除菌治療が必要なケースである.
(根拠) 繰り返す胃潰瘍,HP陽性
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症例1から学ぼう
胃潰瘍再発症例をみたら
(1)まずは,Helicobacter pyloriの感染を疑おう!
(2)HP陽性の症例に対しては,除菌施行を検討しよう! |
(つづきは本誌をご覧ください)
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