第4回
あなたは失神を的確に診断できますか?
綾部健吾(聖路加国際病院内科チーフレジデント)
西原崇創(同ハートセンター)
失神の診断 まずここを押さえよう
(1)失神の原因は心原性と非心原性に分けることができる。
(2)失神の原因検索で大切なことは,きちんと失神の前後の問診を取ることである。先駆する胸痛,動悸などがあれば,心原性の場合が多い。
(3)心原性失神の場合は,診断の遅れが予後に影響を与えることがしばしばある。
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■症例1
胸痛を認めた後に失神した51歳男性
来院時のバイタルサインは意識清明,血圧104/54mmHg,脈拍数30回/分,呼吸数18回/分,酸素飽和度99%(リザーバー6l),体温36.6℃でした。このバイタルサインで注意すべきポイントはどこですか?
研修医A 高度の徐脈です。
指導医 それでは心電図(図1)を提示します。この心電図所見はどうでしょうか?

研修医B リズムは脈拍数30回/分の完全房室ブロックです。また,II,III,aVFならびにV1~V3でのST上昇を認めます。
指導医 次に血液検査(表1)ならびに胸部X線写真(図2)を提示します。これらの検査結果から推定される診断ならびに病態はどうでしょうか?

研修医C 血液検査では軽度腎機能障害ならびに白血球の増加を認めています。胸部X線では臥位で評価が難しいですが,軽度心拡大を認めています。心電図も含めて考えると,急性心筋梗塞(右冠動脈領域)が考えられます。また失神の原因は,房室結節の虚血で完全房室ブロックとなり,それによる高度の徐脈のためと思います。
指導医 この症例ではすぐに心臓カテーテル検査を行っています。その結果は,右冠動脈起始部の完全閉塞を認め,その部位に対してステント留置術を施行し,CCU入室となりました。また徐脈に対しては,一時的なペースメーカー挿入も行いました。
診断とその根拠
(診断) 急性心筋梗塞(下壁)
(根拠) 胸痛を伴う失神,心電図変化,高度徐脈,心臓カテーテル検査所見
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指導医 入院翌日には全身状態も落ち着き,ペースメーカーからも離脱しました。その後は抗血小板薬ならびに降圧薬の内服継続で退院となりました。
症例1から学ぼう
(1)胸痛を主訴に来院した徐脈の患者では,急性心筋梗塞をまず疑う必要がある。
(2)心筋梗塞の診断は速やかに行う必要がある。
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(つづきは本誌をご覧ください)
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