●聖路加Common Diseaseカンファレンス | |||
第2回 あなたは脳梗塞を的確に診断できますか? 堀之内秀仁(聖路加国際病院内科チーフレジデント)
■症例1
指導医 症例1は高脂血症と糖尿病を指摘されていた44歳男性です。入院当日朝まではいつもと特に変わりませんでしたが,日中同僚と食事中に突然右上肢の使いにくさと呂律が回らないことを自覚し,救急車にて当院受診しました。来院時,意識清明,血圧153/88mmHg,脈拍81/min・整,神経学的所見を含む身体所見で明らかな異常はありませんでした。この症例の病態をどう考えますか?
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(診断) 一過性脳虚血発作,左中大脳動脈(MCA)M1領域脳梗塞
(根拠) 臨床症状(運動障害,構音障害)と来院時の症状消失 |
指導医 一過性脳虚血発作の原因精査の目的で第2病日にMRAを施行しています。MRA(図1)の結果をどう考えますか?
研修医D びっくりしました,左のMCAがほとんど途切れかけています。
指導医 そうですね,動脈硬化による変化が非常に強いようです。一過性脳虚血発作を見た場合には,症状が消失していてもこんな血管所見があるかもしれないと念頭においておきましょう。
来院時症状は消失しており,一過性脳虚血発作と診断した。risk factorもあり,今後脳梗塞を起こす可能性もあるため,経過観察とrisk factor評価目的で入院となった。
入院後アスピリンの内服を開始し,頸部エコーなどの評価を行い,経過良好と思われたが,第4病日に聴診器を見せても「はさみです」という失語(錯誤)がみられたため,脳梗塞を発症したと判断し,ベッド上安静とし,グリセオール,エダラボン,オザグレルナトリウムの投与を開始した。
指導医 何が起こったかわかりますか?
研修医D 先ほど途切れかけていた部分が完全閉塞したのだと思います。
第5病日に頭部MRI(図2)施行したところ,左基底核領域から左放線冠,左頭頂葉に広がる多発性の梗塞巣を認め,MRAでは左MCAのM1の起始部に強い狭小化が認められた。安静にしていても第7病日には右下肢優位の右片麻痺が出現したため,ヘパリンの投与も開始した。それにより症状の進行は抑えられ,徐々にリハビリを進めていき,第17病日よりアスピリン,塩酸チクロピジンの内服へと変更した。失語,右上下肢の麻痺はほぼ改善し,吻合術目的に第44病日に転院となった。
一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA) (1)1時間以内に消失する局所脳虚血症状。 (2)90日以内に10.5%が脳梗塞に移行する。(2006年米国心臓協会/脳卒中協会ガイドライン,Stroke 37:577-617,2006) (3)プラークに形成される血小板主体の血栓の剥離による微小塞栓に由来するので,アテローム血栓性の前段階として重要(N Engl J Med 347:1713-1716,2002) |
研修医A 喫煙歴,高齢とリスクのある方で,左麻痺と右共同偏視が起こっていますから,やはり右の脳梗塞と考えます。
指導医 MRI(図3)を見てどう思いますか?
研修医B あれ,梗塞はだいぶ小さいのですね。共同偏視もあるのでもっと大きいのかと思っていました。
指導医 でも,普段の梗塞巣とどこか雰囲気が違いませんか?
研修医A ぱらぱらと分かれていますね。どうしてでしょう?
(つづきは本誌をご覧ください)