HOME雑 誌medicina誌面サンプル 46巻3号(2009年3月号) > 連載●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより
●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより

第12回テーマ

STD・骨盤内炎症性疾患のマネジメント

本郷偉元(武蔵野赤十字病院 感染症科)


■ケース
下腹部痛,腟からの膿性分泌物を訴える25歳女性

現病歴:25歳の独身女性が2日前からの下腹部痛の訴えで救急外来を受診した.1年前および1カ月前に妊娠するがいずれも中絶した.性交渉の相手は数名いる.ここ2週間以内に性交渉があった.特に服薬はなく,薬物アレルギーの既往もない.月経歴:最終月経2週間前,出血量・周期・期間に特に変化なし.妊娠の可能性は否定している.よく話を聞くと悪臭を伴う帯下が下腹部痛発症前後からあったという.

身体所見:体温38.7℃,心拍数80/分,呼吸数22/分,血圧116/74 mmHg,臥位・立位で起立性低血圧なし.全身状態:不安そうな顔つきである.頭目耳鼻喉:異常なし.心臓:I・II音正常,雑音なし.胸部:肺胞呼吸音.腹部:平坦・軟,左右下腹部に圧痛・筋性防御あり,反跳痛はなし,腫瘤なし,腸蠕動音正常,腰背部圧痛なし,肝脾腫なし.四肢:皮疹なし,関節腫脹なし.泌尿生殖器:直腸診にてCMT(cervical motion tenderness,子宮頸部他動痛)あり,内診で左右付属器は触れない.リンパ節:鼠径リンパ節は触知せず.

検査データ:尿所見:pH 7,蛋白(-),糖(-),赤血球3/HPF,白血球3~4/HPF.婦
人科で採取した腟分泌物グラム染色:白血球20/HPF;細胞内にグラム陰性双球菌あり,妊娠反応(-).末梢血:赤血球386×104/ml,ヘモグロビン11 g/dl,ヘマトクリット33%,白血球17,500/ml(好中球St 17%,好中球Seg64%,リンパ球16%,単球2%,好酸球1%),血小板95×104/ml,CRP3 mg/dl.

【Q1】診断は?

 Sexual activityが高い若年女性が悪臭を伴う帯下,2日前からの下腹部痛で受診し,バイタルサイン上,熱と頻呼吸があり,身体所見では筋性防御を伴う下腹部痛,CMTがある.腟分泌物のスメアで白血球内にグラム陰性双球菌が見えている.診断は難しくない.淋菌感染症によるSTD(sexually transmitted disease,性感染症)である.では感染臓器はどこだろうか? STDは多彩である.腟炎? 子宮頸部炎? 尿道炎? 骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)? それとも生殖器以外? 発熱と頻呼吸を認めることから“全身性”の雰囲気がやや漂っている.

(つづきは本誌をご覧ください)

参考文献
1) Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines, 2006 MMWR August 4, 2006/Vol.55/No.RR-11


本郷偉元
バンダービルト大学感染症科フェローシップ終了.2007年より武蔵野赤十字病院感染症科.2007年度は同病院でベスト指導医に選ばれる.2008年度はICT(インフェクションコントロールチーム)が院内のグッドアクティブ賞を受賞した.他院からの短期研修も受け入れている(時期によって調整.希望の方は同院ホームページから総務課を通して問い合わせること).