HOME雑 誌medicina誌面サンプル 46巻1号(2009年1月号) > 連載●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより
●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより

第10回テーマ

尿路感染症のマネジメント

藤田崇宏(静岡県立静岡がんセンター)


■ケース
高熱と下腹部痛・右背部痛を訴える尿道カテール留置中の80歳女性

現病歴:脳梗塞後遺症にて左不全麻痺,神経因性膀胱があり,尿道カテーテル留置中(1カ月に1回交換)の80歳女性.軽度の認知症があるがコミュニケーションは可能.前日からの尿量減少,尿の混濁があった.また当日からの下腹部痛,右背部痛および悪寒戦慄を伴う発熱があるため救急外来を受診した.

身体所見:体温38.5℃,心拍数120,呼吸数25,血圧100/60.全身状態:きつそうである.頭頸部:異常なし.心臓:I・II音正常,雑音なし.胸部:肺胞呼吸音,ラ音なし.腹部:平坦・軟,右背部(肋骨脊椎角部)の叩打痛,腹部触診にて筋性防御はなく下腹部の軽度圧痛あり,肝脾腫なし,四肢:皮疹なし.尿バルーン内は混濁尿を認める.

検査データ:血液所見:白血球17, 500/ml(桿状核好中球17 %,分葉核好中球64 %,リンパ球16 %,単球2 %,好酸球1 %),ヘモグロビン9.5 g/dl,ヘマトクリット29 %,血小板35×104/ml.尿所見:pH 7.5,蛋白(+)・糖(-),赤血球50~70/HPF,白血球>100/HPF,細菌3+.

【Q1】この患者では尿路感染の存在が疑われるが,どのようにすれば尿路感染と診断できるか

■発熱+膿尿・細菌尿は常に尿路感染か?■

 まずは膿尿,細菌尿の定義(表1)を見直すところから始めたい.尿1m3中に白血球が10個以上認められる状態が膿尿である.膿尿がない場合は,発熱の原因が尿路以外にあると考えてもよい(ただし尿管が完全に閉塞している場合を除く).細菌尿は尿の定量培養で得られたコロニー数(colony-forming units:cfu)で定義される.ただし,このコロニー数の基準は患者さんの背景によって異なるので注意が必要である.

表1 細菌尿の定義1)
有意な細菌尿≧105 cfu/ml
膀胱炎≧103 cfu/ml (102 cfu/ml)
腎盂腎炎≧104 cfu/ml

 尿のグラム染色で遠沈せずに油浸(1,000倍)で観察し,1視野に1つ細菌が見えた場合に105 cfu/ml程度の菌量といわれている.

 膀胱内の尿は通常は無菌であるが,尿道や尿道周囲の常在菌により無菌検体でないことが多い.そのため常に尿の培養で得られた検体が尿路感染の原因となるわけではない.無症候性細菌尿という病態があり,これは尿路感染を示唆する所見がないのに,尿を培養すると女性なら2回続けて同一菌が105 cfu/ml以上,男性なら1回でも105 cfu/ml以上の菌が検出される状態をいう(表2).無症候性細菌尿は女性に多く,高齢になるほど頻度が上がる.また,糖尿病があるとさらにリスクが高くなる.

表2 無症候性細菌尿の頻度2)
健康な若い女性 1.0~5.0 %
妊婦 1.9~9.5 %
糖尿病
 女性:10.8~16 %
 男性:0.7~11 %
高齢者
 女性:25~50 %
 男性:15~40 %

 この症例のようにカテーテルが留置されていると,1日あたり3~10%で細菌尿の状態となり,30日以上留置されているとほぼ100 %細菌尿の状態となることが知られている.つまり発熱+膿尿+細菌尿の組み合わせが,常に尿路感染の存在を示すわけではないのである.尿路感染の診断を確定させるにはさらに,尿路感染を示唆する症状が伴っていることの確認が必要となる.

■尿路感染の症状にはどのようなものがあるか?■

 下部尿路(膀胱,尿道)の感染では,排尿時痛,頻尿,夜間尿がみられる.上部尿路(腎臓)まで炎症が及ぶと,発熱,悪寒戦慄,側腹部痛,背部痛がみられる.しばしば吐き気を伴い,消化器疾患と誤られることもある.

 しかし困ったことに高齢者,特にカテーテルが挿入されている患者では熱以外に症状のない尿路感染も多くみられる.では「たまたま他の原因による熱に合併している無症候性の膿尿・細菌尿」と「真の尿路感染」を区別するにはどうすればよいか.残念ながら絶対的な判定基準は存在しない.病歴,症状,身体所見,検査所見を総合して判断するしかないのである.他に感染症を起こしている臓器がみつからず,尿路感染に特徴的な所見が揃って初めて尿路感染と診断できることになる.発熱している患者の検査をオーダーして,膿尿・細菌尿がみつかると,ついつい尿路感染の診断にとびつきたくなるものであるが,常に他疾患を除外する評価も並行して行うことが重要なのである.

(つづきは本誌をご覧ください)