●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより | ||||||
第10回テーマ 尿路感染症のマネジメント 藤田崇宏(静岡県立静岡がんセンター) ■ケース
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表1 細菌尿の定義1) | |
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尿のグラム染色で遠沈せずに油浸(1,000倍)で観察し,1視野に1つ細菌が見えた場合に105 cfu/ml程度の菌量といわれている.
膀胱内の尿は通常は無菌であるが,尿道や尿道周囲の常在菌により無菌検体でないことが多い.そのため常に尿の培養で得られた検体が尿路感染の原因となるわけではない.無症候性細菌尿という病態があり,これは尿路感染を示唆する所見がないのに,尿を培養すると女性なら2回続けて同一菌が105 cfu/ml以上,男性なら1回でも105 cfu/ml以上の菌が検出される状態をいう(表2).無症候性細菌尿は女性に多く,高齢になるほど頻度が上がる.また,糖尿病があるとさらにリスクが高くなる.
表2 無症候性細菌尿の頻度2) | |
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この症例のようにカテーテルが留置されていると,1日あたり3~10%で細菌尿の状態となり,30日以上留置されているとほぼ100 %細菌尿の状態となることが知られている.つまり発熱+膿尿+細菌尿の組み合わせが,常に尿路感染の存在を示すわけではないのである.尿路感染の診断を確定させるにはさらに,尿路感染を示唆する症状が伴っていることの確認が必要となる.
下部尿路(膀胱,尿道)の感染では,排尿時痛,頻尿,夜間尿がみられる.上部尿路(腎臓)まで炎症が及ぶと,発熱,悪寒戦慄,側腹部痛,背部痛がみられる.しばしば吐き気を伴い,消化器疾患と誤られることもある.
しかし困ったことに高齢者,特にカテーテルが挿入されている患者では熱以外に症状のない尿路感染も多くみられる.では「たまたま他の原因による熱に合併している無症候性の膿尿・細菌尿」と「真の尿路感染」を区別するにはどうすればよいか.残念ながら絶対的な判定基準は存在しない.病歴,症状,身体所見,検査所見を総合して判断するしかないのである.他に感染症を起こしている臓器がみつからず,尿路感染に特徴的な所見が揃って初めて尿路感染と診断できることになる.発熱している患者の検査をオーダーして,膿尿・細菌尿がみつかると,ついつい尿路感染の診断にとびつきたくなるものであるが,常に他疾患を除外する評価も並行して行うことが重要なのである.
(つづきは本誌をご覧ください)