●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより |
第8回テーマ 胆道系感染症のマネジメント 矢野晴美(自治医科大学 臨床感染症センター感染症科) 本稿では,ケースをもとに,どのように胆道系感染症にアプローチすべきか,マネジメントの基本を述べたい. ■発熱,右季肋部痛,黄疸のある80歳女性◆現病歴
◆身体所見
◆検査データ
【Q1】この患者の診断は何か?鑑別診断を考えることは,臨床医学の基本をなしており,このプロセスを,clinical reasoning(臨床推論)と呼ぶ.臨床現場では,患者に「どのような問題」があり,それが,「なぜ」起こっているのか(病態生理)を推理し,だから,「こうマネジメントする」といった論理的な思考プロセスが,瞬時に,系統的に要求されている.この患者の場合もそうである. 80歳の女性で,既往歴に糖尿病(好中球貪食能低下,遊走能低下による免疫不全がある),胆嚢胆石,総胆管結石がすでにある患者が,発熱,右季肋部痛を主訴に来院した. 高齢の女性で,免疫不全があり,今回痛みのある部分に,既往歴がある. そうなると,まず第1に想定される鑑別診断は,胆石症,胆嚢炎,胆管炎などである. 発熱,右季肋部痛,黄疸は,Charcotの三徴(Charcot’s triad)注1といい,胆管炎の代表的な臨床症状の指標である. 注1 Charcotの三徴〔眼振,企図振戦,断綴性発語(scatted, or staccato speech)〕は,フランスの神経学者によるmultiple sclerosisの臨床症状を指すこともある. ただし,実際の臨床現場では,それだけでは不十分であるため,より詳細なhistoryを取り,「解剖学的に何が問題で,どうなっているのか」がわかるように,論理をつめていく必要がある.pertinent positives, pertinent negativesというが,ある疾患を支持する症状・所見,ある疾患の可能性を低くする症状の有無,所見を取ることが重要である.(これは,医師のまさに「職人芸State of art」と呼べる部分である.) この患者で想定されるそのほかの鑑別診断では,肝膿瘍,消化管で胃腸炎,胃潰瘍,腸炎,盲腸炎,憩室炎,膵炎,また肺炎はないかどうか,などはざっとすぐに挙がってくる.解剖学的な位置,痛みの発生の仕方,性状などで絞りこんでいくことが大切である. 次に,患者の重症度を瞬時に判断することも重要である.この患者の一般所見(見た目),バイタルサインを見ると,苦しそうであり,血圧も収縮期が90mmHg台,頻脈があり,発熱もある.これらから,SIRS(systemic inflammatory response syndrome,全身性炎症反応症候群)であることを見抜く必要がある.そして,SIRSが「感染症」による場合,これをsepsis(敗血症)と呼ぶ.血圧が下がっている場合は,septic shock(敗血症性ショック)という.つまり,この患者は,右季肋部をフォーカス(原因)とするseptic shockになっている可能性が最も高い,と判断できる. 【Q2】この患者を入院させる場合,どのようにアプローチすべきか?患者を入院させながら,ルーティン(必要最低限の検査)をすべて行う必要がある. 発熱患者に対しては,診断を行うための検査,および治療をほぼ同時に開始することになるが,どのように,マネジメントすべきだろうか. (つづきは本誌をご覧ください) 参考文献
矢野晴美 |