HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻11号(2008年11月号) > 連載●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより
●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより

第8回テーマ

胆道系感染症のマネジメント

矢野晴美(自治医科大学 臨床感染症センター感染症科)


 本稿では,ケースをもとに,どのように胆道系感染症にアプローチすべきか,マネジメントの基本を述べたい.

■発熱,右季肋部痛,黄疸のある80歳女性

現病歴
ADL自立した80歳の女性が,半日持続する発熱,悪寒戦慄,嘔気,右季肋部痛の訴えで救急外来を受診した.呼吸困難や咳はない.既往として食事療法を行っている糖尿病があり,胆嚢胆石,総胆管結石を指摘されている.

身体所見
体温39.5℃,心拍数120/分,呼吸数24/分,血圧90/60mmHg.全身状態:きつそうである,頭目耳鼻喉:黄疸著明,心臓:I・II音正常,雑音なし,胸部:右下肺に呼吸音減弱し打診上濁音,ラ音なし,腹部:平坦・軟,軽度の右季肋部痛,肝腫大なし,脾腫なし,四肢:皮疹なし,下肢痛なし,リンパ節:触知せず.

検査データ
ヘマトクリット36%,白血球14,500/μl(好中球72%,桿状球19%,リンパ球3%,単球6%),血小板7万/μl,CRP34,電解質,BUN,クレアチニン正常,赤沈82mm/hr,ALT82,AST55,ALP122,ビリルビン6.0,胸部X線:右胸水(+),血液培養:グラム陰性桿菌(+),腹部エコー:総胆管拡張,胆嚢胆石,総胆管胆石貯留.

【Q1】この患者の診断は何か?

 鑑別診断を考えることは,臨床医学の基本をなしており,このプロセスを,clinical reasoning(臨床推論)と呼ぶ.臨床現場では,患者に「どのような問題」があり,それが,「なぜ」起こっているのか(病態生理)を推理し,だから,「こうマネジメントする」といった論理的な思考プロセスが,瞬時に,系統的に要求されている.この患者の場合もそうである.

 80歳の女性で,既往歴に糖尿病(好中球貪食能低下,遊走能低下による免疫不全がある),胆嚢胆石,総胆管結石がすでにある患者が,発熱,右季肋部痛を主訴に来院した.

 高齢の女性で,免疫不全があり,今回痛みのある部分に,既往歴がある.

 そうなると,まず第1に想定される鑑別診断は,胆石症,胆嚢炎,胆管炎などである.

 発熱,右季肋部痛,黄疸は,Charcotの三徴(Charcot’s triad)注1といい,胆管炎の代表的な臨床症状の指標である.

 注1 Charcotの三徴〔眼振,企図振戦,断綴性発語(scatted, or staccato speech)〕は,フランスの神経学者によるmultiple sclerosisの臨床症状を指すこともある.

 ただし,実際の臨床現場では,それだけでは不十分であるため,より詳細なhistoryを取り,「解剖学的に何が問題で,どうなっているのか」がわかるように,論理をつめていく必要がある.pertinent positives, pertinent negativesというが,ある疾患を支持する症状・所見,ある疾患の可能性を低くする症状の有無,所見を取ることが重要である.(これは,医師のまさに「職人芸State of art」と呼べる部分である.)

 この患者で想定されるそのほかの鑑別診断では,肝膿瘍,消化管で胃腸炎,胃潰瘍,腸炎,盲腸炎,憩室炎,膵炎,また肺炎はないかどうか,などはざっとすぐに挙がってくる.解剖学的な位置,痛みの発生の仕方,性状などで絞りこんでいくことが大切である.

 次に,患者の重症度を瞬時に判断することも重要である.この患者の一般所見(見た目),バイタルサインを見ると,苦しそうであり,血圧も収縮期が90mmHg台,頻脈があり,発熱もある.これらから,SIRS(systemic inflammatory response syndrome,全身性炎症反応症候群)であることを見抜く必要がある.そして,SIRSが「感染症」による場合,これをsepsis(敗血症)と呼ぶ.血圧が下がっている場合は,septic shock(敗血症性ショック)という.つまり,この患者は,右季肋部をフォーカス(原因)とするseptic shockになっている可能性が最も高い,と判断できる.

【Q2】この患者を入院させる場合,どのようにアプローチすべきか?

 患者を入院させながら,ルーティン(必要最低限の検査)をすべて行う必要がある.

 発熱患者に対しては,診断を行うための検査,および治療をほぼ同時に開始することになるが,どのように,マネジメントすべきだろうか.

(つづきは本誌をご覧ください)

参考文献
1) Dellinger RP, et al:Surviving sepsis campaign:International guidelines for management of severe sepsis and septic shock 2008. Crit Care Med 36:296-327, 2008
2) Solomkin JS, et al:Guidelines for the selection of anti-infective agents for complicated intra-abdominal infections. Clin Infect Dis 37:997-1005, 2003
3) Tanaka A, et al:Antimicrobial therapy for acute cholangitis:Tokyo Guidelines. J Hepatobiliary Pancreat Surg 14:59-67, 2007
4) Gilbert DN, et al(eds):The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy. 38th edition, Virginia, USA, Antimicrobial Therapy Inc, 2008


矢野晴美
1993年岡山大学医学部卒業.沖縄米海軍病院などを経て1995年渡米.内科および感染症科のトレーニング終了.2003~2005年,南イリノイ大学感染症科アシスタントプロフェッサー.2005年帰国し,自治医科大学・感染制御部講師.2006年より自治医科大学臨床感染症センター・感染症科科長,准教授.