●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより |
第5回テーマ 皮膚・軟部組織感染症のマネジメント 大曲貴夫(静岡がんセンター 感染症科) ■下腿皮膚の腫脹・熱感で来院した76歳男性◆現病歴 ◆身体所見 ◆検査データ 【Q1】疾患の局在は? 臓器診断は?まず最初に考えてほしい. 「手や足が赤く腫れていたら,それはすべて蜂窩織炎なのか?」 確かに日常の診療で遭遇することが多いのは蜂窩織炎だろう.しかし,そこで早合点してはいけない.読者の皆さんが日常診療で出遭うのは,感染症ばかりではない.非感染性疾患だって,同じような所見を呈してもよいのだ.つまり診断についてよく考えないままに「蜂窩織炎」と安易に診断をつけると,痛い目に遭うということだ.実際には別のプロセスが進行していて異常を呈する場合だって多くあるから,注意が必要だ. まず大切なことは,「拾い上げた患者の問題点を系統的に記し,その問題点を説明し得る鑑別診断を挙げ,それらの検査前確率を推し量り,検査前確率の高いものをrule in/検査前確率の低いものをrule outしていくこと」だ.つまりは一般的な診断の推論過程をきっちりとたどることが重要だ.「一発診断」は確かに格好いい.型にはまれば〔つまり自分の慣れ親しんだ医療環境で,ごく典型的なpresentation(臨床像)の患者を診た場合には〕診断までの時間はきわめて短くてすむ.しかし気をつけないと失敗する. ポイントは,最初に鑑別診断を考える場合には,第一印象にとらわれすぎないこと,言い方を変えれば「決めつけない」こと.特に患者の問題のpresentationがどうも特定の疾患ですっきり説明し切れない場合には,注意が必要だ.思わぬ問題が潜んでいることがある. 【Q2】まず考えてみよう:蜂窩織炎以外の鑑別疾患は?では具体的には,上記のような症状で患者さんが来院した場合には広くどのような鑑別診断が考えられるのだろうか? 具体的に考えられる鑑別疾患は例えば表1のようになる. もちろん,これらの鑑別診断をどのような診療setting(場)であっても平等に鑑別していけと言っているわけではない.あとは,患者の訴えてくる症状・その他の情報,身体所見などからいずれかの疾患に特異的な情報を引き出し,診断を詰めていけばよい.このように鑑別疾患を一通りもれなく整理しておく意義には「見落とさない」ということがある.どんな疾患でも,思いついて鑑別診断に挙げないかぎりは,rule in/rule outはできないのだから. 【Q3】漠然と「軟部組織感染です」ではだめ――具体的にはどのような感染か? 一言に皮膚軟部組織感染といってもさまざまな種類がある.まずは病変の解剖学的部位をきちんと同定することが必要だ.それぞれ臨床的に特徴的な所見をもっているので,その区別の方法について以下に述べる. (つづきは本誌をご覧ください)
大曲貴夫 |