●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより | ||||||
第4回テーマ 市中細菌性髄膜炎のマネジメント 笹原鉄平(自治医科大学附属病院臨床感染症センター 感染制御部/感染症科) ■ケース 70歳男性,頭痛・咳を伴う発熱◆現病歴 ◆身体所見 ◆検査データ ■鑑別疾患・診察の要点■頭痛を伴う発熱患者を診察する際に,見逃してはならない表1のような疾患に対して常に留意すべきである.細菌性髄膜炎は進行が速く,一度診断の機会を逃すと重篤な結果を招くため,髄膜刺激徴候が明白な症例のみならず,説明のできない頭痛と発熱がある症例では積極的に髄液の評価を検討されたい.特に表2の因子をもつ患者では,髄膜炎を鑑別診断として考慮しておくことが重要である.また,血液検査での白血球数やCRPの数値では,細菌性髄膜炎かどうかを判断することはできない.細菌性髄膜炎は治療が遅れると致命的な感染症なので,治療しないという選択肢をとる場合は十分に細菌性髄膜炎が除外されるべきであることを忘れてはいけない.白血球やCRPは診断の補助にはなるが,それらが正常範囲でも髄膜炎の除外はできない.病歴・症状・所見から髄膜炎を想定した場合は頭部CT(頭部造影CTが望ましい)で占拠性病変(腫瘍・膿瘍)や,出血,ヘルニアがないことを確認して腰椎穿刺を行うべきである.発熱,項部硬直,意識状態の変化の3つは,急性髄膜炎患者の発見にあたり感度が良いと言われており,特に注意が必要な症状である.
予後や合併症の観点から,危険な所見として血圧低下,意識障害,痙攣が挙げられる.視力障害,うっ血乳頭,嘔吐なども頭蓋内圧亢進の所見なので注意を要する. 髄膜炎患者の診察に際し感染管理の立場から留意すべき事項は,飛沫感染対策が必要な点である.特にこの理由に,日本では少数の発生となるが,髄膜炎菌性髄膜炎がある.髄膜炎菌は流行性の病原体であり,患者から医療従事者に感染しうる.また,髄膜炎菌患者に曝露された場合のリファンピシンの予防投薬という方法もあるため,救急診療に従事する方はぜひ確認されたい.髄膜炎菌は全身に播種され点状出血や紫斑が見られる特徴があるため,皮膚所見にも注意すること.皮疹の生検培養で髄膜炎菌の検出が可能である. Q1 髄膜炎では,常に教科書的な髄液所見となるだろうか?この症例では,好中球優位,蛋白上昇,糖の低下が著明で細菌性髄膜炎がより上位に疑われ,グラム染色で陽性双球菌が見られることから肺炎球菌性髄膜炎と推測できる.髄液検査においては,毎度,細胞数とその分画,蛋白,糖,グラム染色,クリプトコッカス抗原,ヘルペスウイルス(HSV)のPCR検査に注目すること.ただし,教科書的な特徴と合致しない症例もあり,病期や先行する抗菌薬投与の有無などでも所見が変わることもある.細胞数があまり多くないこと,リンパ球優位であることを理由に,細菌性髄膜炎は除外できない. (つづきは本誌をご覧ください) |