HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻2号(2007年2月号) > 連載●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために
●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために

第11回テーマ

回診でのプレゼンテーション

川島篤志(市立堺病院・総合内科)


「○○回診」の前日,研修医室にて
研修医A:あぁ,明日「○○回診」やなぁ。レジュメを作らなきゃ……。あっ! ルーチンの検査,提出するの忘れてた! 明日の朝に緊急で取ってもらわないと怒られるなぁ。
研修医B:週に1回の回診なんやから,ちゃんとやっとかなきゃ。オレなんて,Xさんのデータもちゃんと書き込んでいるし,準備バッチリやで。
研修医C:あれ? Xさん,徐々にヘモグロビン下がってきてるみたいだよ。前回の回診のときも,少しおかしいなぁと思ったけど,とてもしゃべれる雰囲気じゃなかったし,誰も検討してなかったら,いいのかな,と思ってたんだけど……。
研修医B:先々週のプロブレムリストにはあったけど……抜け落ちちゃったなぁ。これはマズい。
研修医A:これじゃぁ,Xさんの退院は延期だな。オレの患者さんも退院したいっていってるけど,OKでるかなぁ……。
研修医C:ところで,明日の回診には指導医のM先生は来るかなぁ……。回診のときにいつも後ろのほうにいるから,学会の相談しようと思ってるんだけど。
指導医N:(ガラっと入ってきて)お前ら,何の話してんねん! ちゃんと回診の準備をしろ!

少人数でのベッドサイド回診にて
初期研修医:5日前に労作時呼吸困難を主訴に入院し,潰瘍性病変からの消化管出血による小球性低色素性貧血が見つかったYさんです。えーっと……。
指導医:(フムフム,臨床経過も含めてスムーズに言えてるなぁ)
初期研修医:年齢は……74歳で,イヤ,75歳だったかもしれません。プロブレムリストですが,(1)胃の潰瘍性病変,(2)高血圧症,(3)……あ,やっぱり74歳でした。
指導医:(どっちでもいいのに……)
初期研修医:昨日からの変化ですが,バイタルも安定していて本人は食事も全量摂取しています。実は昨日,足を挫いたみたいで……。
後期研修医:それは後でいいから,潰瘍性病変のことを伝えて!
初期研修医:あっ,すみません。潰瘍性病変に関してですが,バイタルも血液検査も安定しています。それで,昨日の夕方に病理の結果が出ていまして。
指導医:そう。
初期研修医:クラスVが出ているので,「胃ガ……」(後期研修医に中断される)
後期研修医:オイオイ! すみません。「MK(施設での胃癌の別表現)」と診断がつきました。まだ本人には話をしておらず,今日,家族と一緒に説明予定です。
初期研修医:すみません……。
(病室にはいって,診察が終わった後)
患者さん:ありがとうございました。うちの担当の先生,声が大きくて元気がいいですね。それでさっき,イガ何とかって言ってませんでしたか? 病気のことですか?
指導医:はは……。僕の髪の毛がイガイガだなぁってしゃべってたんですよ。また説明させてもらいますね。ハハハ……。(ポカっ:初期研修医をこずく)

 前回までは,新入院・救急や外来などで初めて患者さんを提示する場面を想定した話でした。

 今回は日常臨床の大部分を占める,すでに入院している患者さんのフォローにおけるプレゼンテーションの話です。

■回診について

 皆さんの施設では回診はやっていますか?

 頻度は1日朝夕2回や,土日を含めた毎日やっているところから,週1回などと,施設によってさまざまでしょう。規模も教授・部長回診といった大規模のものからチーム回診といった小規模のものとさまざまです。またレジュメを用いてカンファレンス室で行われるものやカルテのみを参照するものから,ベッドサイドに足を運ぶものと種類も分かれると思います。

 患者さんを診るにあたって,少人数で頻度の高いベッドサイドへの回診は,一般にどんなに高度な検査よりも臨床的には重要です。研修指定病院での施設紹介に「CT ○台,内視鏡 ○台……」というよりも,「回診 ○回」のほうが患者さんにとっても,研修医にとっても有用であることは,まだまだ理解されていないと思います(なぜ有用なのかは後述)。

 実際のプレゼンテーションのフォーマットも施設ごとに異なるかもしれませんが,少人数での比較的頻度の高い回診をイメージしたフォーマットの一例(参考資料1:最終頁に掲載)に沿って話を進めていきます。

■内容

(1)準備

 新入院のプレゼンテーションと同様に,適切なプレゼンテーションはよい準備から始まります。朝の回診に臨むには,回診前に自分で情報を収集してくることが必要です。情報収集もベッドサイドで得る病歴や身体所見もあれば,夜間帯の看護師に直接聞く情報や,記録からの情報もあります。朝一番で見ておけるように提出した検査もあるかもしれません。

 例えば朝8時から回診が始まると想定して,10人の患者さんを担当しているとすれば,何時に出勤して情報収集を始めるかは,それぞれの重症度と自分の情報収集能力と相談すれば,おのずとわかってくるはずです。午後の回診にもどんなに忙しい状況でも,抜けてはいけない・見落としてはいけない情報を把握することが求められています。

(2)患者さんの紹介

 すでにどこかで症例の紹介をしているので,回診に参加している方が症例を思い出せる状況をつくれば十分です。元々のプロファイルと来院時の主訴,現在のプロブレムリストの主たるものが混在した表現になることが多いです。名前と性別,年齢から始まりますが,年齢が思い出せず「えーっと」となるようであれば,年齢もだいたい,もしくは省略も可と思います。さらに数週間以上も入院している長期入院となっていてみんなが知っている症例で安定している場合は省略も可能だと思います(長期入院=問題点が多いけれども,現在アクティブな問題点は少ないことが多い)。

(3)プロブレムリスト

 続いてプロブレムリストを挙げますが,ここでは2つ,ポイントがあります。。。

(つづきは本誌をご覧ください)


川島篤志
1997年筑波大学卒。京都大学医学部附属病院,市立舞鶴市民病院にて研修。2001年より米国Johns Hopkins大学 公衆衛生大学院に入学し,MPH取得。2002年秋より現職。院内での総合内科の充実を目指すとともに,全国規模で,研修病院としての「経験の共有」,総合内科/総合診療/家庭医療/プライマリ・ケアの「横のつながり」を意識しながら,この分野を発展させていきたいと強く感じている。
本連載へのお問い合わせはkawashima-a@city.sakai.osaka.jpまで。