HOME雑 誌medicina 内科臨床誌メディチーナ > できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために
●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために

第7回テーマ

「伝える」ことのコツ
――声・姿勢・目線・時間

川島篤志(市立堺病院・総合内科)


便秘がちで動脈硬化性病変のリスクの少ない65歳女性が,下血を主訴に憩室からの出血疑いで入院した時のプレゼンテーションで

研修医:(現病歴の中で)夜間就寝中,えーっと2時30分ごろだったそうですが,突然便意を催して,1階のトイレに行かれ,最初は普通便が出たそうです。その後,下痢みたいな水が出ていたそうです。次は4時ごろ,時計を見ていたそうですが,座った瞬間にシャーッと水様便が出たそうで,見てみると真っ赤だったそうです。結果的には血液が出てたということだと思います。えーっと,その次は6時をちょっと回った時に……。
指導医:とにかく,突然の便意があって,最初に便が混じった血液を頻回に排泄したんだね。
研修医:えーっと,まとめるとそうです。すみません。
 (検査結果まで進んで)血液検査ですが,Hb/Hctが12.3で,36.7でした。アレ,36.9だったような……。
指導医:比較できる以前のHb/Hctはありますか?
研修医:データを確認しようとしたんですけど,コンピュータに取り込まれていなくて,いろいろと聴きにいったんですが……。開業医の先生にも連絡しようかと思ったんですが,かけようとした時に別の用事で呼ばれて……。
指導医:あ,じゃあ比較のデータはないんだね。
研修医:はい,ありません。すみません。
指導医:凝固系は異常なかった?
研修医:凝固系ですか……。えーっと。(パラパラ)やっているとは思うんですけどぉ……。ちょっと待って下さい。(パラパラ)えーっと。PTは97%で,aPTTは35.2秒だった~と(ゴモゴモ)。
指導医:じゃぁ,異常ないんだね。
研修医:す,すみません。ありません。(その後,最後までようやく到達し)以上です。
指導医:ハイハイ。これで終わりですね。
研修医:あの……次の症例にいっていいですか?
指導医:まだあるのか……(周りを見ると,数人が眠っている)。フゥー

 症例プレゼンテーションは,症例の把握をする部分とそれを伝える部分に分かれます。前回までの話は,情報をいかに集めるか,いかに整理するか,と症例把握=内容の部分を話してきました(一部,それぞれの箇所での伝え方のコツもありましたが)。今回は「伝える」ことのコツを全般的に話します。

 症例提示のプレゼンテーションに限りませんが,プレゼンテーションをするときのポイントには,内容・声・姿勢・目線・時間が大切になってきます。聴衆を飽きさせることなく,集中力を落とさず,イライラさせることなく,気持ちよく聞いてもらうか,ということを意識しましょう。

 あるテキスト1)には,プレゼンテーションを演劇にたとえている(脚本=症例把握能力を基盤にした内容そのもの,役者=研修医,演出=コミュニケーション能力に関連したプレゼンテーション技術)記載がありますが,誰もおもしろくない演劇とわかっていて観にいく人はいないでしょう。観に行った演劇がおもしろくなかったら,時間の無駄と感じるでしょう。観にいっておもしろくない演劇をもう一回,観にいきたいとは思わないでしょう。

 子どもの発表会なら,家族の人は喜んで観に来るかもしれませんが,研修医のプレゼンテーションを楽しみにしている指導医は少ないものです。皆さんのプレゼンテーションがつまらない演劇になればなるほど,指導医の気持ちも落ちていくかもしれません。研修医の皆さんもプレゼンテーションが苦痛に感じるかもしれませんが,指導医も同様に苦痛を感じているものです。

■声

 基本的には大きく明瞭であったほうが自信があるように聞こえていいでしょう。プレゼンテーションは人に物事を伝えることですので,聞こえにくい/聞こえないのでは問題外です。もちろん,場に適した声の大きさを調整する必要があります。少人数でのディスカッションで大きな声や,個人(患者)の情報が漏れるような場所での大きな声は不要です。早口過ぎるプレゼンテーションはいけませんが,少し早口のほうが締まって聞こえますし,スピードの強弱や効果的な間合いは有用です。単調な,棒読みのプレゼンテーションもいけません。声の強弱も人を引きつける要素です。

 医師全員がいい声・口調をもっているわけではありません。ただ,小さい声やこもった声,ゆっくりとした,のんびりした口調の人は基本的に不利です。そういう人は,内容でカバーすることももちろんですが,聴衆を「ハッと」させる技術:「仕事用の声」が必要です。

(つづきは本誌をご覧ください)


川島篤志
1997年筑波大学卒。京都大学医学部附属病院,市立舞鶴市民病院にて研修。2001年より米国Johns Hopkins大学 公衆衛生大学院に入学し,MPH取得。2002年秋より現職。院内での総合内科の充実を目指すとともに,全国規模で,研修病院としての「経験の共有」,総合内科/総合診療/家庭医療/プライマリ・ケアの「横のつながり」を意識しながら,この分野を発展させていきたいと強く感じている。