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●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために

第5回テーマ

プレゼンテーションのフォーマット(各論2)
――身体所見・検査所見

川島篤志(市立堺病院・総合内科)


(消化管出血で入院した時のプレゼンテーションで)
研修医:血圧は114/62で,脈拍90の整でした。
指導医:あ,体位による変化はあった? 前回,教えたと思うけど……。
研修医:そ,そうですよね。体位による変化はあったような気がします。
指導医:座らせたのかな? それとも立たせたのかな? 脈が早くなったの? 血圧も落ちたの?
研修医:えーっと……どっちだったかな。脈拍は……。 
指導医:(自分でやったなら忘れるはずもないだろうに)……まあ,次にいこうか。
研修医:はい。心臓と肺には所見なく,腹部は……。
指導医:貧血があるので,駆出性収縮期雑音はなかったかな?
研修医:えーっと,あの……その。あったかな……。
指導医:(こいつ,聴いてないな)…じゃぁ,検査所見にいこうか。
研修医:Hb/Hctは7.0/21.4で,(MCVは述べず)……BUN/Creは22.3の0.69,だったかな。あ,0.79でした。BUNは23.2でした。すみません。
指導医:(どっちでもいいけど… MCVはいくつなのかな?)

(※ 指導医は,本当はあまりプレゼンテーションを中断しないほうがいいのですが,今回の例ではポイントがわかるように中断をしています)

■身体所見

 前回お話ししましたが,準備しておくことがきわめて大切です。後述する検査所見は誰かがオーダーしているかもしれませんし,客観的なデータとして残りますが,身体所見は自分自身が取っていないと,しゃべろうにもしゃべれません。

 病院/施設ごとに身体所見のフォーマットがあると,初期/後期研修(+スタッフ)の期間を通じて,共通の認識で所見を取ることが可能になるかもしれません。あまりフォーマットにこだわり過ぎるのも良くないかもしれませんが,身体所見における「必要最低限」が指導医も研修医も理解できていない状況であれば,存在価値は大きいと思います。

 身体所見のプレゼンテーションの順番は,バイタルサインを述べて,そのあと頭頸部から順に胸部,腹部,四肢,神経学的所見と進むのが一般的です。病院ごとのフォーマットがあればその流れに沿うのがいいと思います。全身状態や意識レベルが大切な症例ではバイタルサインの前後に交えると効果的です。

 指導医は病歴のプレゼンテーションから各種の鑑別診断を思い浮かべています。そして,その鑑別診断と重症度判定に関連する,チェックすべき,または予想される身体所見のプレゼンテーションを待っているものです。

 表1にあるように,複数の臓器にまたがっているものがありますので,フォーマットに順番があるにしても,ある程度まとまったものは一気に述べるほうが効果的に伝わります。その際に「○○に関してですが」と題名をつけると,わかりやすいものです。

表1 鑑別に挙がるものを含めて,取ることが期待される所見の例
貧血症例 便潜血の有無,駆出性雑音の有無
Volume loss症例 体位によるバイタルサインの変化,JVPの高さ,末梢の皮膚温
肝硬変症例 意識レベル,くも状血管腫・手掌紅斑・脾腫・腹水などの有無
下腹部痛症例 腹部所見,直腸診での所見
発熱+頸部リンパ節腫脹症例 他の表在リンパ節の有無
糖尿病症例 身長・体重,体位によるバイタルサインの変化,神経障害の有無,眼底所見

 病歴のなかでも,大事な陰性所見がありましたが,身体所見でも同様です。「○○を示唆する所見はありません」と述べることによって,考えたけどもない,ということが伝わります。ただ,自信を持って「ない」というのはなかなか難しいものです。筆者自身も「心音のIII音は聴取しません」と言うためには,III音がある可能性を意識し,聴きやすい体位を取ってもらったうえで聴診をしますが,それでも「ないと思います」,という表現にとどめると思います。

 また以前も話をしましたが,身体所見を取ることができなかった場合,患者が非協力的であった場合や,自分自身で解釈できなかった場合は,はっきり述べることが大切です。プレゼンテーションをしている人がわからない所見の表現を,診ていない聴衆が鮮明に理解することは至難の技です。「○○の所見はないと思うのですが,わからないので一緒に診てください」,という表現が適しています。

 身体所見の各論を話しているときりがないのですが,日本の医学教育のなかで抜けていると思われるポイントを少し述べます。

 バイタルサインのなかでは,血圧,脈拍,体温とありますが,呼吸数とSpO2を入れる癖をつけましょう。呼吸数が含まれていないSpO2は意味がありません(SpO2が94%でも,呼吸16回/分と呼吸40回/分では意味が違う)。

 おざなりにされているのが,体位による血圧/脈拍の変化,頸静脈の評価,直腸診,眼底の評価であると思います。各施設での徹底度はいかがでしょうか?

(つづきは本誌をご覧ください)


川島篤志
1997年筑波大学医学専門学群卒業。京都大学医学部附属病院で内科研修のあと,市立舞鶴市民病院にて3年間,内科・救急を研修。2001年より米国Johns Hopkins大学 公衆衛生大学院に入学し,公衆衛生学修士(MPH)取得。2002年秋より,現職。総合内科の臨床,研修医への指導や研修システムの確立,病院内での生涯教育にも興味をもち,携わっている。