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●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために

第3回テーマ

プレゼンテーションの準備
フォーマット 総論

川島篤志(市立堺病院・総合内科)


糖尿病がある喫煙している60歳男性が胃潰瘍で入院した時のプレゼンテーションで
研修医:……以上です。
指導医:はい,わかりました。それで,今回の病歴とは直接関係ないけど,ときどき,労作時に胸が詰まった感じがあるって,言ってなかった? 糖尿病で,喫煙者だからこの入院中にチェックしたほうがいいね。
研修医:えっ。先生のカルテにもここまでしか書いていなかったんですけど,そんなこと言ってたんですか?
指導医:あ,ゴメン。書いてなかったっけ……(コイツ,自分では病歴を取っていないのか?)

肺気腫がBaseにある方が肺炎で入院し,軽度の貧血が見つかった新入院患者のプレゼンテーションで
研修医:……病歴は以上です。
指導医:フムフム……(次は身体所見だな)
研修医:それで,胸部CTですけれど……(身体所見,基本的な血液検査を述べないまま,しばらく経過)
指導医:……(身体所見は取ってないのか?)
研修医:ただ,身体所見では,はっきりとしたCracklesも聴こえなかったです。肺気腫があるかもしれませんね。そういえば病歴では,労作時の息切れもあったと思います。でも眼瞼結膜の貧血はないんですが,採血上ではHb/Hctは11.2 / 34.5ですね。アセスメントとしては,肺のこともあるんですが,消化管出血も意識したほうがいいかもしれません。便潜血も陽性だったので。喫煙に関して,いい忘れましたが……
指導医:……(頭がこんがらがるなぁ)

■プレゼンテーションの準備

 前回も話に出てきたように,プレゼンテーションするためには,とにかく情報を集めて,患者さんを把握することが必要です。さらに,「必要最低限」の情報を含めた,どの情報が有用なのかを判断するためには病態の理解が求められています。その必要な情報を整理したうえで,他の人に伝えることによって,プレゼンテーションが成立します。

患者さんの把握

 患者さんの把握のためには,多くの情報を正確に,適切に集めることが求められます。その情報源はどこにあるか? 患者さん本人だけでなく,家人や周囲の方,以前入院・通院していた医療機関,現在の医療機関の過去の記録などさまざまです。

 少なすぎる情報では,適切な判断は下せませんし,不必要に多い情報では,混乱が生じます。何が必要最低限なのか,このあたりを常に意識しておくことが大切です(この「必要最低限」については後述します)。

 研修医を含めて,経験の浅いうちは多くの情報を集めてくる訓練をしなければいけません。経験を積んでくると情報の取捨選択は上手になってくると同時に,面倒さや時間的な制約から多くの情報をとろうとしなくなってくることが多いかもしれません。研修医のうちは時間があるはず(入院患者さんが主体,他のDutyなどがない)なので,面倒がらずに情報収集をする習慣をつけたいものです。

 前号にも記載しましたが,恥かしながら筆者の研修医時代に,予約入院患者さんにおいて,入院前=患者さんに会う前に現病歴を作成した経験があります。この時の情報源は何だったでしょうか? 過去の入院カルテ・外来カルテからの作成でした。効率はいいかもしれませんが,本当に患者さんを把握しているとは到底言えませんし,何のトレーニングにもなりません。

 病歴をカルテ中心に取っているようであれば,主治医チームが捉えている医学的な問題点に主眼が置かれると思います。しかし,患者さんには他の臓器の問題点がある可能性もありますし,社会的な側面の問題もあるかもしれません。それを見つけるのが,医師として,主治医としての責任だと思います。

 実際,当院の研修医に伝えていることの1つは,
●プロブレム・リストに問題点を挙げてくれれば,それに対するアセスメント&プランは指導医側で対処できる
●プロブレム・リストにさえも挙がらなければ,その問題は見逃される
●指導医側も見つけていなかった問題点を見つけてくることは,研修医の仕事であり,功績だ
ということです。

 こういった問題点を見つけるには,ROS(Review of systems;詳しくは次号)を含めた病歴をしっかりと取る訓練を地道に続けることが必要です。身体所見も同様で,「頭の先から爪の先まで」チェックする習慣をまず身につけることが大切です。知識や経験がついたときに初めて,少し省略した所見でも対応可能になると思います。

 さらに大切なことは,病歴聴取や身体所見を取ることは決して1回で終わるわけではではないことを認識することです。報告や回診などでの発表の機会までは緊張して頑張るのですが,そのプレゼンテーションが良かったにしろ,悪かったにしろ,そこで終わりにしてしまっていることが多いのではないでしょうか。経験が浅いうちは,1回ですべての情報を得ることは不可能でしょう。しかし繰り返し,繰り返し情報を集め,整理することによって,プレゼンテーションに値するものに変化していくものです。研修医はこの繰り返す姿勢をさぼらずに自分自身で身につけること,一方,指導医は繰り返すことを促すこと,改善を評価する機会をつくることが必要です。

(つづきは本誌をご覧ください)


川島篤志
1997年筑波大学医学専門学群卒業。京都大学医学部附属病院で内科研修のあと,市立舞鶴市民病院にて3年間,内科・救急を研修。2001年より米国Johns Hopkins大学 公衆衛生大学院に入学し,公衆衛生学修士(MPH)取得。2002年秋より,現職。総合内科の臨床,研修医への指導や研修システムの確立,病院内での生涯教育にも興味をもち,携わっている。