HOME雑 誌medicina 内科臨床誌メディチーナ > できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために
●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために

第2回テーマ

現在,「ないもの」

川島篤志(市立堺病院・総合内科)


ある日のプレゼンテーション
研修医:昨日,入院となった胃潰瘍の人です。……小球性低色素性貧血を認めています。(数分経過)……以上です。
指導医:その貧血だと,病歴のうえでは,以前から労作時の息切れや動悸は,あったかな?
研修医:えっ。呼吸器や循環器の症状は聞いていませんよ。
指導医:じゃ,じゃぁ,体位による血圧の変化はなかったんだよね?
研修医:えーっと。看護師の記録では血圧は113/75です。奇数ですから,これはモニターからとったやつですね。体位は記録してないでしょうね。
指導医:……

ある日のプレゼンテーション
研修医:65歳の女性の方です。現在,高血圧症と右膝関節痛があり,近医にてフォローされている方です。現病歴ですが……(2分経過)。それで身体所見ですが……。
指導医:もう,いいよ。今日の胃カメラでA2 stageの胃潰瘍があって,生検もした人でしょ。
研修医:は,はい。今後はどうしましょうか?
指導医:しばらく絶食のうえで,PPIを入れといて。ピロリの除菌も考えようか。近医の薬は続けといて。
研修医:は,はい。(でも,この方,関節リウマチ疑いと言われているけど,ホントかなぁ? さすがにNSAIDsは止めるべきだけど,後はこのメソトレキセートという薬も続けとけばいいのかな?)

ある日のプレゼンテーション
研修医:入院3週間前に○○診療所を受診して……次に紹介にて△△病院を受診しました。検査結果にて,◇◇病の診断にて,本日,予定入院となりました。
指導医A:よし! みんなにわかりやすいように,検査所見もきちんと並べとけよ。
研修医:ハイ!
指導医B:……(アレ? 現病歴で,この人の症状に触れていたかな?)

■ないない尽くしのPresentation

 前回,お話したように,プレゼンテーション能力は,臨床能力を反映すると考えられます。それにもかかわらず,「プレゼンテーションに自信がない」「うちの研修医のプレゼンテーションは駄目だ」ということをよく耳にします。言葉を置き換えると,「臨床能力に自信がない」「うちの研修医の臨床能力は駄目だ」ということです。とても残念なことですが,どうしてプレゼンテーション能力が伸びていかないのでしょう?

 私見ですが,研修医個人だけの問題ではなく,多くの要因(表1)が関係していると思います。あまりにも「悪いもの=ないもの」が多過ぎるので,ちょっとやそっとの改善では上達しないのかもしれません(上達のコツは第7・8話でお話します)。今回はそれぞれについての問題点・改善点を検討していきます。

表1
●卒然教育が悪い?
●研修医が悪い?
●指導医が悪い?
●症例が悪い?
●日本の医学教育システムが悪い?
●日本の文化が悪い?

■卒前教育?:プレゼンテーションについての教育がない

 自分自身が学生であったときには,プレゼンテーションのフォームを正式に教わったという記憶がありません(単に自分自身が不真面目であっただけかもしれませんが)。

 実際,2005年に当院の研修医24名(1/2年目15人,3/4年目9人:2005年度)に取ったアンケートでは,卒前教育でプレゼンテーションの教育を受けていないと答えたのは22名で,受けたと答えた人はわずかに2名でした。

 プレゼンテーションの仕方,というものを授業で教わる,というのは難しいかもしれません。やはり臨床実習のなかで,継続したプレゼンテーションの機会が設けられることによって,訓練されていくものではないかと思います。現在の縦割りの科の中では,研修医に対する共通の継続した教育は難しいのかもしれませんが,臨床実習として,学生を主体とした発表の場を用意することは,まだ可能ではないでしょうか?

■研修医?:病歴・身体所見が十分に取れない,病態と結びつけられない,プレゼンテーションのフォーマットを知らない

 プレゼンテーションを行うには,事前の情報収集が大切となります(詳細は次号)。例は極端かもしれませんが,研修医では,病歴や身体所見と病態を結びつける知識と経験が不足しています。

 「詳細な」病歴聴取と,「適切な」病歴聴取は異なります。単なる記録のための病歴聴取となっている可能性もあります。Review of Systemsを含めて,鑑別疾患を念頭に置いた病歴聴取が,目の前の症例だけでなく,今後出会う症例に対応するのに大きく役立つことを覚えておいてほしいです。

 身体所見も同様です。どういった所見が重症度・鑑別疾患を判断するのに必要なのか,ということが理解できていない場合もあります。

 一方,すでに「誰か」によって指示された華やかで客観的な検査所見の解釈は,日を重ねるごとに上手になっていきます。各検査の感度/特異度や特殊検査の解釈は習得していくかもしれませんが,なぜその検査が必要なのか,病歴・身体所見から得られた検査前確率はどうなのか,といった思考について検討される機会は少ないのかもしれません。

 プレゼンテーションのフォーマットを知らないことも問題です。現在ではプレゼンテーションに関する書籍も増えてきていますが,施設として共通のフォーマットを研修医に手渡しているところは,まだ少ないのではないかと思います。今回の連載も医学生だけでなく,初期研修医や後期研修医,さらにはスタッフの先生方にもお役に立てれば……と思います。

(つづきは本誌をご覧ください)


川島篤志
1997年筑波大学医学専門学群卒業。京都大学医学部附属病院で内科研修のあと,市立舞鶴市民病院にて3年間,内科・救急を研修。2001年より米国Johns Hopkins大学 公衆衛生大学院に入学し,公衆衛生学修士(MPH)取得。2002年秋より,現職。総合内科の臨床,研修医への指導や研修システムの確立,病院内での生涯教育にも興味をもち,携わっている。