●研修おたく海を渡る |
第50回テーマ マーケティング活動――そこまでやるの! 白井敬祐(サウスカロライナ医科大学) 以前にメラノーマのチーム立ち上げの話を紹介しました. 今回はその一環のマーケティング活動の話です.つまりメラノーマプログラムを売り込むための戦略です. 先日,車で2時間,200 km離れた州都の病院でTumor Boardの時間を使い,最近のメラノーマ治療の概説,さらに当がんセンターで提供できる臨床治験の紹介宣伝をしてきました.2009年の2月にNCI(National Cancer Institute)指定がんセンターになった当センターですが,さらに上のステータスを獲得するためには,治験登録患者数,研究業績など多方面で成長を続けなければなりません. 僕のいる大学には,州内4地区に分かれてマーケティングアドバイザーといわれる人たちがいるそうです.担当地域の患者紹介パターンを分析したり,診察結果の報告などのフォローアップが遅いとか,コミュニケーションが足りないといった紹介後のクレーム処理も引き受けながら,新規開拓をするのが彼らの仕事です. 当日は,移動時間のロスを少なくするために,アドバイザーの車で事前に計画されたルートを回ります.全く土地勘のない街ではとても心強いサービスです. メラノーマの概説は病院側から依頼されたテーマですが,自分たちが競合相手とどう違うかの説明が最重要課題です.ほかの有力大学よりは距離的に近く(患者の負担は少なく),治験の数が揃っていること(選択肢が豊富)をアピールしました. その前後には,新規患者紹介ルートの開拓のため,皮膚科,耳鼻科,腫瘍内科といったメラノーマに関係のある開業医グループのオフィスに顔見せに回ります. マーケティングアドバイザーが過去の紹介パターンから脈ありとふんだグループを選び出し,アポイントを取った後に,担当医師,連絡先,現在進行中の臨床治験,紹介の仕方などが書かれた紹介ビラを配るのです. アメリカでは,日本とは違い,医師がいくつもの診察室を訪問して回るのがよくあるパターンです.診察室を移る医師にタイミングを見計らって挨拶し,自分たちの活動を宣伝するのです.露骨にいやな顔をされたりもしました.一緒に回った外科医と,「けっこうつらいなぁ.製薬会社の営業の人は,いつもこんな感じなのかなぁ」(間違っていたらごめんなさい)とか「僕もこんなのされたら迷惑やなぁ」などと話していると,「ここは長くいても効果が薄そうだから,次の○○グループに行きましょう」と頃合いを見計らってくれるのもアドバイザーの仕事です. 一方で,そんな治験があるならぜひ紹介したいという好意的な反応もありました.なかにはOBだからとサポートを約束,全米でも理想の開業モデルとして評価されたという外来センターの案内までしてくれた医師もいました. さらに紹介の機会ロスも防ぐ必要があります.紹介受診に至るまでに何回も電話をさせるようなたらい回しシステムではいけません.いかに,スムーズに紹介受診日の決定までもっていけるかを重視したホットラインの設置に始まり,また,ワンストップサービスにすることも重要です.必要であれば画像検査,腫瘍内科,外科,放射線科受診が同じ日にできるような仕組みができれば最高です.これは,特に遠くに住む患者さんにはセールスポイントになります.こういったシステム作りには,病院の広報,サービスライン担当の専門家がかかわります. ただ「こんな所にも人がかかわっているから,アメリカの医療費は高いのだろうか?」と考えたくもなりました. 白井敬祐
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