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●研修おたく海を渡る

第39回テーマ

医療者と患者の想いがテーマのカンファレンス

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


研修医のためのモーニングカンファレンス,がん治療の方針を決めるTumor Boardなどいろいろなカンファを紹介してきましたが,今回は,うちの病院でもつい最近はじまったSchwartz Center Roundとよばれる緩和ケアカンファレンスを紹介させてください.

これはボストンの弁護士であったKenneth Schwartzが,肺癌患者として医療者とかかわるなかでみられた自身の感情の動きを綴ったことに始まります.肺癌患者としてだけでなく,ひとりの人間として関係を築くことがいかに心の支えになるか,平静さを与えてくれるかを,彼は詳細に記述しました.

そして,医療関係者と患者の関係をよりよくしたいという彼の思いがマサチューセッツ総合病院でのThe Schwartz Centerの設立につながりました.残念ながら,センター設立後まもなく彼は帰らぬ人となってしまうのですが,医療者と患者の想いをテーマに取り上げるThe Schwartz Center Roundは,いまでは160以上の病院で開かれているそうです.

このRoundには,医師,看護師だけでなく,患者に関わるすべての職種の人が参加することができます.時には,患者や家族が加わることもあります.テーマは「医療者と患者の想い」です.診断や具体的な治療,経過などは対象外です.「患者と家族のやり場のない怒りにどう対処していいかわからずただ呆然としてしまった」「医療者として無力な自分に情けなくなってしまった」「思い入れのあった患者なのに最期の時に立ち会えず,気持ちの処理に時間がかかった」といったどちらかと言えばネガティブな心の動きだけでなく,「この一言で救われた」「これをきっかけに医療者になりたいと思った」といった前向きな報告もあっていいのです.

感情を吐露したプレゼンターに対して,ここがよくなかったとか,ああすればよかったのになどと批判的にならないことがこのRoundでのルールです.「そうだねぇ」「私も経験あるある」とひたすら聞く姿勢ですすんでいくのです.「私はこうしている」という経験のSHAREはいいのですが,そのあとに「だから,あなたもこうしたらよかったのに」が隠されているような発言はbadです.

急性前骨髄球性白血病(APL)になった患者に,「白血病の中でも治る白血病でよかった.ついていますね」と言って励ましたら,予想したような治療効果は見られずに病気は進行し,患者とも,家族とも気まずいまま過ごしてしまったという体験も語られました.逆に,「治る病気ではない」と説明しても,毎回「私の病気,治りますよね」と聞かれてこまっているという話もありました.False Hope(間違った希望)なんだから「残念ながら治らない病気です」と毎回くりかえして訂正することが果たしていいのだろうか? そうすることでFalse Hopelessness(あやまった絶望感)を与えることにならないか? 本人もうすうす気づいているのだから,肯定はしないけれども,あえて訂正しなくてもいいのでは? と悩む医師の姿が語られました.

どのテーマをとっても,ひとつの答えがあるわけではありません.そのときにおかれた自分の立場,気持ち,また,相手の状況,想いによって大きく変わってくるものだと思います.ただ他の参加者の体験談に触れることで,自分にしっくりくる方法に出会えることもあります.またみんなが同じようなことで悩んだり,癒されたりしているのだということに気づけることが,気持ちを新たにして日々の医療現場に戻っていける力になるのです.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.