HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻11号(2008年11月号) > 連載●研修おたく海を渡る
●研修おたく海を渡る

第35回テーマ

自分ひとりの外来?

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


 フェローシップを修了して数カ月が経ちました.指導医のいない自分ひとりでの外来は,ずいぶんひさしぶりです.「自分ひとり?」そんなことはありません.外来での小さな,でも強力なチームについて,紹介させてください.僕の科では,医師と看護師がマンツーマンで外来チームをつくります.僕は,月,水,金と週3回外来を担当するのですが,3回とも同じ看護師さんがついてくれます.

 僕の相棒は,ボビーという看護師さんです.ご主人は精神科医で,中西部のミシガン州から最近引っ越してきました.循環器内科での経験が長いが,がん外来は初めてだというそんな彼女と新米同士なんとかやっています.看護師歴は長く,僕なんかよりずっと臨床経験も人生経験も豊富なのですが,ボビーは今でも勉強熱心です.

 真新しいノートを手に現れ,がん外来を担当するからには,「いいケアがしたい」と,病気について,患者さんについてなんでもメモをしていきます.看護師さんとのマンツーマン体制はフェローのときからなので,慣れているつもりでしたが,ここまで熱心な人は初めてでした.

 毎回の外来には,2~3人の新患が紹介されてくるのですが,前医から手に入る情報をまとめて数日前までに届けてくれます.そのうえで何を知りたいか,当日どんな検査が必要か,一緒に確認をします.治療を受けに,またセカンドオピニオンを求めて,車で数時間かけて通ってこられる方もいるので,少しでも無駄足になるのをさけるためです.

 ボビーは,わからないこと,感じたことを僕が気づかないような角度からコメントしたり,質問してくれます.僕も自分がどう考えるか,迷ったときは何を頼りにするかといった情報まで含めて「share」(共有)するようにしています.その過程で,こっちの頭も整理されてくるのです.またそうしておくことで,外来以外の日に患者さんからの連絡,質問が入ったときにも,方針,ゴールを共有しているので,スムーズなアドバイスができます.

 ボビーからは,患者さんの家族関係や,どういうことを期待して受診に来ているのかなどを,診察前にこっそり教えてもらいます.診察が終わったあとにも,患者さん,家族の反応が,しっくりこなかったときは「今の説明でよかったか」確認したり,「どう感じているのか」を探ってもらったりもします.状況にあった言い回し,伝え方といった英語まで,お願いして教えてもらっています.

 看護師さん,そして患者さんとの情報共有も,小さくともチーム医療のひとつだなぁと最近つくづく感じています.そういえば,僕の師匠も,患者さんの前で「僕らはチームだから,みんなが同じページにのっている必要がある」(“Are we on the same page?”)と,ことあるごとに言っていたのを思い出します.目標を高くもって「小さくてもがっちりとした,そしてあたたかいチーム」を僕もつくりたいものです.

 「看護師さんがマンツーマンでつくなんて,ぜいたくだ」と言われるかもしれません.日本では,最近の病棟看護の重点補強で「外来に医師が15人いるのに,外来看護師は5人もいないんだ」との噂を聞いたこともあります.そんな日本でめざすチーム医療とはどんなものか,こちらの医療を観察しながら,またじっくり考えてみたいと思います.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.