HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻11号(2007年11月号) > 連載●研修おたく海を渡る
●研修おたく海を渡る

第23回テーマ

Death Watcher

白井敬祐


 死という人生に一度しかない出来事に対して,準備する時間をとって心構えができるよう本人と家族を助けるのが,Death Watcherの仕事だと僕のメンターは教えてくれました.

 医療者は,宗教家とともに多くの死に向き合う数少ない職業です.たくさんの死に向き合うことで,「少しでも上手に死を手助けできるようになるのではないか.いや,上手なサポートができるようにならなければならない」と,彼はDeath Watcherになる覚悟をしたそうです.

 Death Watcherは,“Cure”「治すこと」が望めないときに,“Heal”「癒し」につなげる仕事をするのです.時には患者,家族の決定を助ける手伝いをします.一般病棟からICUへの不要な転送をできるだけ減らすために,Cureが望めない病気の進んだ患者が入院したときには,可能であればDNR(Do Not Resucitate)/DNI(Do Not Intubate)「蘇生/挿管拒否」の用紙にサインをしてもらうことが勧められています.その際,研修医がいろいろと工夫しても同意が得られないのはよくあることです.「もしあなたの心臓が止まったら,どうしましょう?」とあまりにもopenに聞きすぎたり,「もう治療法は,ありません」と突き放しすぎるのです.

 そんなときも彼は自然体です.「ここのところ,調子が悪いようですね.あなたの病気のテンポから考えると,いつなにが起こってもおかしくないとも考えます.昨日も聞かれたと思いますが,もし心臓が止まるようなことがあったら,僕なら心臓マッサージは受けないと思います.心臓マッサージには,たくさんの人の助けがいるので,家族をみんな部屋から追い出すことになるし…….騒然とした状態になります.最後の時間を家族なしにGood Byeを言えずに,過ごすことになりかねません.望まないのに,意思表示をしていなかったがために,そういう状況になったことを,医者を長くやっていると,いやというほど見てきました.それだけは避けてほしいのです」

 彼と患者の自然なやりとりのなかで,たくさんのことを学ばせてもらいました.

 そんな百戦練磨の彼ですが,“Each patient is unique”であると,また“You can not make everybody happy”とも,自分にも言い聞かせるように言っていました.

 “Heal”をめざすホスピスには,患者と家族のためのパンフレットが置かれています.そこには,ホスピスチームがめざす5つのゴールが書かれています.“Forgive me”“I forgive you”“I love you”“Thank you”“Good Bye”と(写真).最後に「ありがとう」と言って逝けることは,本人にとっても家族にとっても大きな“Heal”「癒し」につながるのだと教わりました.

 アメリカでも,しかも血液内科/腫瘍内科のフェローシップですら,この分野のトレーニングはまだまだ足りないと言われています.「患者と家族を,ひとつのユニットとしてとらえる」「Each patient is unique」という2つの教えを肝に銘じながら,最後に「ありがとう」と「さようなら」を言ってもらえるような手助けができるDeath Wactherになりたいものです.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow).米国内科認定医.