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●研修おたく海を渡る

第8回テーマ

日本人研修医

白井敬祐


 僕のいたプログラムには毎年数人の日本人研修医が採用されています。今回はアメリカの研修病院における日本人研修医の生態をレポートします。

 日本で臨床経験を積んでから渡米する人が多いので経験値については問題ないのですが,英語は多かれ少なかれ苦労するようです。病院から離れたクリニックにいる指導医と連絡をとるとき,病棟からひっきりなしになるポケベルに対応するとき,これらのほとんどが電話で行われます。「can」と「can't」が区別できなかったり,数字が英語になった途端に,頭に残らなくなってしまう経験を僕は今でもします。

 一番怖いのがミスコミュニケーションです。伝わっていないのがわかると相手のフラストレーションも一気に高まります。心がけたことは“What you want me to do is one……,two…….Correct?”と必ず自分でくり返し,相手に「Yes」,「No」で答えてもらうようにしていました。当直では,ささいなことでも病棟に顔を出し,「こいつはこんなやつだ」というのをわかってもらうようにしました。そのうち顔見知りになると,僕のときには電話でゆっくりわかりやすく話してくれるようになります。相手もがんばっているのが伝わってきました。相変わらずdictationでは僕のアクセントのせいでとんちんかんな単語になっていることもあります。ややこしそうなときは“SHIRAI, S as Sam, H as Harry, I, R as Richard, A as apple, I”などとspell outします。航空会社の予約コードの確認と同じですね。

 一般化しすぎるのはよくないことだとわかっているのですが,あえて言います。日本人研修医はよく働きます。しかもあまり文句を言わずに……。オンとオフのあまりはっきりしない日本での研修生活に比べると,時間的にはアメリカの研修はかなり楽です。もちろん英語や違うシステムに慣れるためのストレスはありますが。こんなにオンとオフがはっきりしていて,しかもポケベルなしの月があるのに,同僚の多くは「しんどい,やってられん」と文句を言っています。日本で研修された方なら,みんな笑って“I can't complain.”と言えること請け合いです。申し送りのときにどんな面倒なことを頼まれても,「教えてくれてありがとう」“Thank you.”と笑顔で返していた日本人の同僚はtoo niceと今でも伝説になっています。

 うちのプログラムでは年3週間の有休がもらえました。しかも長い休暇のあとにも居場所がちゃんとあります。それだけですばらしいと思っていましたが,ヨーロッパ人は違います。ポーランドから来た友人は研修医でも6週間もらえたし,そもそもそれぐらいないとバカンスとは言えないと。彼らのバカンス明けの働きぶりをみると休むことの大切さを実感できます。

 文句といえば,一年目のときチーフレジデントからローテーションの変更や当直のカバーを頼まれても二つ返事で引き受けていました。上の人がいうのだから,サムライスピリットをみせてやろうと。しかし誰もそんなこと覚えていないことに気がついた二年目からは,はっきりと自分が主張できるようになりました。それだけ成長した?ということでしょうか。

 日本から学生さんや研修医の方がたくさん見学に来られるのですが,チーフレジデントが必ず「楽しんでいるだろうか?満足しているのだろうか」と確認に来ます。彼らからすると,あまりに感情を表に出さないのでエンターテインできているか心配になるようです。これも,サムライスピリットがうまく伝わっていないのかもしれません。


白井敬祐
1997年京大卒。横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする。2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow)。米国内科認定医。