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●研修おたく海を渡る

第6回テーマ

学生は味方?

白井敬祐


今回は研修における心強い味方,医学生の存在に焦点をあててみたいと思います。

 研修病院では彼らも立派なチームの一員です。インターンと同じように当直し,入院を取り,朝回診をしてプレゼンもします。ただレクチャーがあるときはそちらが優先になり,病棟から脱出していきます。

 アメリカに飛び込んだ最初の年の僕にとっては,Medical Student は救世主のような存在でした。英語はやっぱりいつまで経っても外国語,日本語のように速くは読めませんし,ポイントが勝手に目にとまってくれるようなことも残念ながらありません。そういったときに,ちょこっと学生さんに,「ここ,記憶があいまいやから調べといてくれる。おれ英語,読むのまだまだ遅いから・・・・・・。ほんで,あとでミニレクチャーしてくれる?」とお願いするのです。たいていの場合”sure”と,快く引き受けてくれます。これでずいぶん救われたし,賢くもなりました。もちろん自分が知ってる分野の話や,実際の経験談をすることでお返しをします。

 学生さんには,Bedsideの実習で“Bread and Butter”を学んでもらうことは大事です。ただそれだけでなく日々の臨床ではグレーゾーンが多いこともわかってもらえればと考えています。一回で完璧なHistory/Physicalをとる必要はありません。僕ももちろんとれません。シャトルのように行ったり来たりしてもらいましょう。できるインターンは,学生を味方につけるのが上手です。学生を使ってコンサルタントと連絡を取ることもできます。「どうしたらいいか聞いといて。もし機嫌よさそうやったら,何でそうするのかも聞いといて。ほんであとで教えて」とまたお願いするのです。「ありがとう,かしこなったわ」のお礼は忘れずにしましょう。

 みんながみんな気のいい学生というわけではありませんし,往々にして二度手間になることもあります。ただいろんな社会経験を積んだ変わり種の学生さんからは,刺激も受けます。声のやたらいい演劇科卒業でオペラ専攻の学生や,35歳で医学部に入り直した2児の母もいました。「少しのミスが死を意味するミッションフライトを成功させるのは,シミュレーターでいかに意味のある失敗をたくさん経験できるかによる」なんて話を元トップガンの学生から聞かされたときは「まだまだ甘い」と引き締まる思いでした。

 学生も必死です。内科などのメジャーと言われるローテでの評価はレジデンシー応募の際に大きく影響してきます。そのためどの時期にまわってくるかによって学生の意欲がずいぶん違ってくるのです。競争率の高いと言われる整形外科,皮膚科,眼科志望の学生があたると「優秀かつmotivationが高いのでラッキー!」などとまことしやかに言われています。

 こういった学生からの突き上げは,自分が一番下っ端だと甘えてはいられない環境をつくり出します。態度もでかいが体もでかい元ナース医学生からの突き上げなんか想像しただけでぞっとします。インターンは,こういった学生を教えながらレジデントになる準備をするのです。日本でも,活気のある研修病院には多くの医学生が年中見学に訪れているように思います。学生を教えるのは,完成した医師である必要はありません。もっといろんなところに学生とレジデントをセットで配置すれば,指導医もずいぶん楽になるし,学生もレジデントも早く成長できるのではないでしょうか。

(注)“Bread and Butter”:生きるのに必要な物であることから,転じてここでは絶対に欠かせない医者としての基本とでもいった意味合いでしょうか。


白井敬祐
1997年京大卒。横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする。2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow)。米国内科認定医。