特集の理解を深めるための27題
問題1
心筋梗塞後の患者で,過去に心不全による入院が1回だけあるが,現在はまったく心不全症状のない患者の「stage」と「NYHA機能分類」は次のうちどれか.
A stage A,NYHA I
B stage B,NYHA I
C stage B,NYHA II
D stage C,NYHA I
E stage D,NYHA II
問題2
心不全における交感神経の異常について正しいのはどれか.1つ選べ.
A 左室駆出率が低下しなければ交感神経の活性化は起こらない.
B 慢性心不全における交感神経の活性化は血圧の低下によってのみ惹起される.
C 慢性心不全において活性化した交感神経により変化するのは心拍数のみである.
D 急性心不全において,交感神経の活性化により全身体液量の増加がそれほど多くなくても急性肺うっ血を惹起しうる.
E 左室駆出率が維持されている心不全の場合は,種類を問わず十分な降圧薬を用いることで急性の肺うっ血予防効果が確立されている.
問題3
81歳の女性.既往歴:高血圧症.2カ月前から労作時息切れあり.来院前日23時就寝中に呼吸困難が出現.座位でやや呼吸困難は改善したが,症状持続するため,翌2時に救急搬送となった.来院時,起坐位,Japan Coma Scale(JCS)10,血圧194/112 mmHg,心拍数110/min(洞性頻脈),SpO2 93%(O2 10 Lリザーバーマスク).両側全肺野に水泡性ラ音を聴取.下腿浮腫軽度.胸部X線では軽度の心拡大と両側肺野にびまん性の肺胞性陰影を認め,心エコーでは,左室拡大なく,左室駆出率(EF)55%と左室収縮能は保たれていた.
この患者の急性期治療として適切でないのはどれか.1つ選べ.
A 酸素投与
B 非侵襲的陽圧換気(NPPV)
C ニトログリセリン
D カルペリチド
E 強心薬
問題4
65歳,男性.高血圧で近医にて加療を受けていた.そのほか,既往では特記すべきことなし.夜間,突然の呼吸困難を自覚し救急搬送された.入院時所見:意識清明,起座呼吸,血圧185/93 mmHg,脈拍110/分,整,呼吸数32/分,SpO2 87%(室気),酸素8 L/分,マスクで吸入後SpO2 92%に改善するも呼吸困難は十分に改善せず.頸静脈怒張高度認める.胸部聴診:全肺野に湿性ラ音,喘鳴を聴取.心音:整,心尖部にて全収縮期雑音Levine III/VI を聴取.両側末梢浮腫なし.神経学的異常なし.
適切な初期対応はどれか.1つ選べ.
A 経過観察
B 気管挿管
C 強心薬投与
D 利尿薬投与
E 持続的気道陽圧(CPAP)
問題5
33歳,男性.1年前に特発性拡張型心筋症(左室拡張末期径68 mm,左室駆出率28%,軽度・僧帽弁閉鎖不全症)による慢性心不全と診断され,ACE阻害薬,β遮断薬,利尿薬,スピロノラクトンが投薬され外来にて心不全の増悪を認めず経過観察されていた.しかし,感冒症状を認めはじめ,その後労作時息切れを認めて徐々に増悪傾向を認めていた.夜間,突然起座呼吸を認めたため,救急車にて循環器外来受診した.外来にて下記の所見を認めたため,緊急入院となった.
理学的所見:血圧102/88 mmHg,心拍108 bpm(整),下肢浮腫(+),下肢冷感(+),頸動脈怒張(+),胸部X線:両側胸水貯留,肺うっ血(+),心エコー:左室駆出率22%,中等度~重度の僧帽弁・三尖弁閉鎖不全症,推定肺動脈圧48 mmHg,下大静脈径:22/22 mm.
入院後,まず投薬する抗心不全薬はどれか.1つ選べ.
A ドパミン
B ドブタミン
C PDE III 阻害薬
D ノルアドレナリン
E 血管拡張薬(カルペリチド,硝酸薬)
問題6
大動脈バルーンパンピング(IABP)および経皮的心肺補助(PCPS)について誤っているものを1つ選べ.
A IABPは,後負荷を軽減する.
B IABPは,大動脈拡張末期圧を上昇させる.
C IABPは,高度大動脈弁逆流を有する患者に適応がある.
D PCPSは,心臓にとって後負荷を増大する.
E PCPSは,前負荷を軽減する.
問題7
心不全に関して正しいものを1つ選べ.
A 心不全では,交感神経活性は低下している.
B 心不全では,アルギニン-バソプレシン(AVP)の分泌が低下している.
C 心不全では,アルドステロンの分泌が亢進している.
D 心不全では,アンジオテンシン II の投与が有効である.
E 心不全の生命予後はACE阻害薬では改善しない.
問題8
急性心不全に関する記述で正しいのはどれか.
A うっ血は急性心不全の最も多い症状であり,かつ再入院の原因である.
B 急性心不全患者においてフロセミドによる治療は患者の予後を改善する.
C 急性心不全患者において,腎機能は予後規定因子ではない.
D 急性心不全患者のうち70%以上が,一般的な治療により6時間以内に呼吸苦の改善を認める.
E トルバプタンの使用は急性心不全患者の予後を改善する.
問題9
慢性腎臓病を合併した心不全患者の急性期治療に適さない血液浄化療法はどれか.1つ選べ.
A 持続的血液透析濾過
B 間歇的血液透析
C 腹膜透析
D 持続的血液濾過
E 体外限外濾過法
問題10
70歳台男性.慢性心不全増悪により1カ月で6 kgの体重増加,夜間発作性呼吸困難と下腿浮腫をきたし4回目の入院となった.自宅での生活状況を本人より聴取すると,「薬は忘れずに飲んでいる,水も飲んでいないし塩分も控えめで妻の作った料理しか食べていない」と話す.体重測定と手帳への値の記載は以前行っていたが,誰かに確認されたことはなく中断している.
この患者への生活支援の内容でふさわしくないものはどれか.
A 体重増加,下腿浮腫,呼吸困難の症状を振り返り,心不全増悪の症状であることをともに確認する.
B 服薬管理,塩分・水分制限は自己申告と異なりできていないと思われるので,服薬および塩分・水分制限を遵守するよう指導する.
C 生活状況を妻からも確認し,内服管理,塩分・水分制限の状況を詳細に把握する.
D 医療者が定期的に確認することを伝え,再度体重測定値の記載を勧める.
E 今までできていた点は言語化して称賛する姿勢でかかわる.
問題11
心不全症例における栄養障害の評価に有用でない指標はどれか.1つ選べ.
A 血清アルブミン値
B Body Mass Index
C 総リンパ球数
D 総コレステロール値
E 総好中球数
問題12
以下のうち,正しいのはどれか.2つ選べ.
A 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と中枢性睡眠時無呼吸(CSR-CSA)が混在する心不全患者は稀である.
B heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)では,heart failure with reduced ejection fraction(HFrEF)に比べて睡眠呼吸障害(SDB)の合併頻度はきわめて低い.
C OSA主体のHFrEFにはCPAP治療により,再入院の予防効果が期待できる.
D CSR-CSAを合併する心不全に対し,順応性自動制御換気装置(ASV)はCPAPより無呼吸低呼吸指数(AHI)を確実に低下させる.
E CSR-CSAを合併するHFrEFに対するASVの長期予後改善効果は確立している.
問題13
左室収縮能が低下しており,心不全症状を呈する患者に対して,標準的に投与される薬剤はどれか.
A ACE阻害薬
B Ca拮抗薬
C β遮断薬
D β刺激薬
E PDE III 阻害薬
問題14
ジギタリス中毒をきたしやすい患者背景として当てはまらないものはどれか.
A 高齢者
B 慢性腎臓病
C クラリスロマイシン内服中
D 肥満者
E 低カリウム血症
問題15
わが国の慢性心不全治療ガイドラインにおいて,左室収縮能が低下した慢性心不全の治療薬のうち,NYHA II 度の心不全の治療に推奨されていないものはどれか.
A ACE阻害薬
B ARB
C β遮断薬
D 抗アルドステロン薬
E 経口強心薬
問題16
フロセミドを慢性投与すると,遠位尿細管の細胞肥大を通じ,Na再吸収が下位ネフロンにシフトし,利尿効果が減弱する.その際に併用すると,利尿増強を期待できる利尿薬はどれか.
A トラセミド
B スピロノラクトン
C サイアザイド
D トルバプタン
E エプレレノン
問題17
左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の特徴として正しいものはどれか.1つ選べ.
A 若年に多い疾患である.
B 心不全患者の20%程度の頻度である.
C 患者数は減少傾向で,生存率が改善している.
D 左室の拡張機能障害に加え,心臓以外のさまざまな疾患を合併する.
E 高血圧の合併は少ない.
問題18
HFpEFについて正しく述べられているのはどれか.2つ選べ.
A 高血圧を基礎疾患としている症例では血圧のコントロールが重要である.
B β遮断薬の投与により予後改善が見込まれる.
C 血圧がコントロールされているHFpEFに対し,RA系阻害薬を追加することで,予後の改善が見込まれる.
D 抗アルドステロン薬の投与により予後改善が見込まれる.
E HFpEFに対する臨床研究に際しては,症例ごとの多様な病態を十分に評価する必要があると考えられる.
問題19
外来心不全患者に対する運動療法で正しいものはどれか.1つ選べ.
A NYHA分類 III 以上では禁忌である.
B 嫌気性代謝閾値(AT)が常に運動処方の指標となる.
C レジスタンストレーニングは不要である.
D 運動療法を行っていると心不全増悪の発見が遅れる.
E SpO2は90%以上を維持するべきである.
問題20
CRTのClass I 適応となる症例は次のうちどれか.2つ選べ.
A QRS 98 ms,左室駆出率(EF)25%,NYHA III 度の症例.
B QRS 110 ms,EF 45%,NYHA I 度の症例.
C QRS 138 ms,EF 56%,NYHA II 度の症例.
D QRS 150 ms,EF 28%,NYHA III 度の症例.
E 房室ブロックで心室ペーシング中の(QRS 202 ms)NYHA II 度の症例.
問題21
日本における補助人工心臓(VAD)に関して誤っているものはどれか.1つ選べ.
A 日本における移植待機患者におけるVADの補助期間は欧米に比較して長い.
B 植込み型VADの適応は原則として移植適応患者に限られている.
C 現在,植込み型VADは拍動流が主流であり,連続流VADは徐々に用いられなくなっている.
D 体外式VADによる治療は入院による使用が一般的であり,使用患者は病院での生活を強いられる.
E 現在のところ4種類の植込み型VADが保険償還され臨床使用されている.
問題22
以下の項目のなかでTAVIの適応として正しいのはどれか.2つ選べ.
A 弁置換術後の患者
B AVRのリスクが高い患者
C 透析の患者
D 2尖弁
E 退行変性した3尖弁
問題23
次のうち,正しいものはどれか.
A 心筋再生医療とは体外にて作製した心筋細胞を心臓に移植して生着させることのみを意味する.
B 体性幹・前駆細胞を心臓へ移植する治療は,移植細胞が心筋細胞へと分化することを目的としたものである.
C 多能性幹細胞由来心筋細胞移植治療においては,移植細胞の造腫瘍性が一つの課題である.
D 心臓に遺伝子を導入するにはウイルスベクターを用いる必要がある.
E 低分子化合物の投与により心筋再生を促進させることが可能である.
問題24
終末期医療における治療方針の決定で誤っているものはどれか.1つ選べ.
A 患者の意思を尊重する
B 医学的妥当性が必要である
C 主治医の裁量が優先される
D チームにより判断する
E 患者や家族の意思は変わりうる
問題25
末期心不全における緩和ケアについて正しいのはどれか.2つ選べ.
A 医師単独の判断で緩和ケアを行うことができる.
B 緩和ケアとはモルヒネなどの薬剤を投与することである.
C 末期心不全におけるモルヒネ投与はガイドラインで推奨されている.
D 適切な緩和ケアは生命予後を改善する可能性がある.
E 多職種カンファレンスを患者の死後も継続する.
問題26
75歳,陳旧性心筋梗塞をもつ男性.T大学病院で入退院を繰り返していた.同院には,独りで月1回の定期受診を行っていた.心不全がNYHA2からNYHA3への増悪に伴い,労作時息切れが出現し,歩行自体も困難になってきたため,通院に家族の介助が必要となってきた.現在の介護度は要介護2である.現在,在宅医療の導入を検討している.
保険診療上,心不全患者の在宅医療の対象となる患者は以下のうちどれか.
A NYHA3以上
B 階段歩行ができない
C 要介護2以上
D 独り暮らし
E 重症度やADL,要介護度,家族背景などによる基準はない
問題27
地域ぐるみの慢性心不全管理について適切な記述はどれか.1つ選べ.
A 病院完結型診療が原則かつ理想である.
B 薬物治療の強化により二次予防は十分に達成可能である.
C 要となるのは救急科と連携したカテーテル専門チームの構築である.
D 大学病院などの基幹病院が主体的に行うべきである.
E 地域連携パス手帳などを用いた医療情報の共有が有用である.
心不全クロニクル 患者の人生に寄り添いながら診る
(解答は本誌掲載) |