特集の理解を深めるための33題
問題1
68歳男性.糖尿病,高血圧の既往があり,今回はうっ血性心不全のため緊急入院となり,気管挿管のうえICU入室となった.心不全には血管拡張薬とフロセミドが投与され,改善傾向となったが,第3病日に高熱,黄色痰,酸素化増悪,胸部X線で右下肺野に局所的な浸潤影を認めた.血圧140/80 mmHg,脈拍100/分,体温38.9℃,呼吸数28/分,SpO2 98%(FiO2 30→50%).血行動態は安定しており,血管収縮薬は不要であった.超音波で膿胸はなさそうであった.グラム染色でグラム陰性桿菌を認めたため,推測治療としてピペラシリン・タゾバクタムを投与開始した結果,解熱,黄色痰の改善,酸素化改善が得られた.後日痰の培養でKlebsiella pneumoniae が分離され,セフトリアキソンに感受性であったがセファゾリンには耐性であった.
特異的治療に関して正しいのはどれか.
A ピペラシリン・タゾバクタムのまま合計3週間治療する.
B メロペネムに変更して合計2週間治療する.
C セファゾリンに変更して合計1週間治療する.
D セフトリアキソンに変更して合計1週間治療する.
E ピペラシリン・タゾバクタムのまま1週間治療する.
問題2
抗菌薬治療中にもかかわらず解熱しない時,行うべきではないことはどれか.
A 感染性心内膜炎を疑い,経食道心エコーを行う.
B すべての人工物を交換する.
C 結核を除外するためにツベルクリン反応を行う.
D 診断が正しかったのか振り返る.
E 背部もくまなく診察する.
問題3
39℃以上の高熱をきたしうる疾患で,緊急で抗微生物薬が必要なものは次のうちどれか.
A サイトメガロウイルス伝染性単核球症
B toxic shock syndrome(TSS)
C ねこひっかき病
D Sweet病
E 特に基礎疾患のない非高齢者のインフルエンザ
問題4
外来で1週間以上発熱が続く患者に対するアプローチとして,適切なものを2つ選べ.
A 血液培養を採取する
B 経口抗菌薬を開始する
C 繰り返し身体診察を行う
D 自己抗体のスクリーニングを行う
E 入院して精査する
問題5
渡航者の発熱診療について,間違っているものはどれか.
A マラリア流行地域から帰国後の発熱では,まずマラリアを除外する.
B 渡航期間のうち,いつ感染したかわからないため潜伏期は参考にならない.
C 渡航地での蚊やダニ,食べ物の曝露などを詳細に聴取すべきである.
D 発熱のフォーカスが特定できないことが比較的多い.
E 渡航地域によって,感染する感染症の種類やリスクが大きく異なる.
問題6
以下のうち,咽頭の感染を起こしにくい疾患はどれか.
A 梅毒
B HIV感染症
C C型肝炎
D 淋菌
E クラミジア
問題7
診療所でのグラム染色について,正しいものはどれか.
A 診療所で検査を行うにはコストが高い.
B 抗菌薬の選択には関与しない.
C 染色をすれば,培養や感受性検査は必要ない.
D 菌名を正しく診断できることが多い.
E 良質な検体を採ることが大切である.
問題8
診療所で血液培養を行ううえで,正しいものはどれか.
A 保険請求上1セットしか請求できないため,血液培養は1セット施行する.
B 忙しい外来のなかでも,血液培養は必ず医師が行うべきである.
C 外来・在宅ではたとえ血液培養が必要な場合でも,血液培養を施行せず抗菌薬を使用してもよい.
D 血液培養施行に関する意義や知識を診療所スタッフで共有し,実現可能な環境づくりを行うことが重要である.
E 診療所では臨床症状がはっきりしていないことも多いため,感染症を疑った場合,感染臓器・原因菌を推定しなくてもよい.
問題9
先進国で起こる市中発症の下痢症に占める細菌性腸炎の割合はどれか.
A 10%未満
B 10~30%
C 30~50%
D 50~70%
E 70%以上
問題10
2011年のドイツにおける腸管出血性大腸菌(O104)感染症の多施設研究で,溶血性尿毒素症症候群(HUS)発症リスクを上げないとされた抗菌薬を選べ.
A アジスロマイシン
B ホスホマイシン
C ST合剤
D βラクタム系抗菌薬
E いずれでもない
問題11
調理師が通常の便検査で病原性大腸菌(EPEC)が陽性であった.軽度の下痢もあるため就業は停止し,医療機関を受診.抗菌薬を投与され症状が消失した1週間後に便検査を行ったが,菌は陽性であった.以下のうち正しいものはどれか.
A 3類感染症なので保健所に届け出る.
B 便培養が陽性のうちは就業再開できない.
C 症状が消失すれば就業再開可能である.
D 抗菌薬投与は必須である.
E ベロ毒素陽性のことが多く,稀に溶血性尿毒症症候群をきたす.
問題12
以下のうちで,正しいものはどれか.
A ウイルス性上気道炎の治療において,フルオロキノロン系抗菌薬は有効である.
B 小児から成人まで,ほとんどのフルオロキノロン系抗菌薬は安全に使用できる.
C フルオロキノロン系抗菌薬の使用により,肺結核症の診断が遅れることがある.
D フルオロキノロン系抗菌薬は時間依存性であり,頻回の投与が効果的である.
E フルオロキノロン系抗菌薬の使用期間と細菌の耐性獲得には関連性がない.
問題13
マクロライド系薬の良い適応となる疾患でないものはどれか.
A 肺炎球菌性肺炎
B マイコプラズマ肺炎
C モラクセラ肺炎
D 百日咳
E 非定型抗酸菌感染症
問題14
以下の抗菌薬のうち,バイオアベイラビリティが50%以下のものはどれか.
A セファレキシン(ケフレックス®)
B セフジトレンピボキシル(メイアクト®)
C アモキシシリン(サワシリン®)
D レボフロキサシン(クラビット®)
E ST合剤(バクタ®)
問題15
セフトリアキソンについて誤っているものはどれか.
A 緑膿菌はスペクトラムに含まれない.
B 1日2回投与で使用されることが多い.
C Clostridium difficile 関連腸炎(CDI)発生リスクとの関連を示す報告が存在する.
D 黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性はセファゾリンよりも劣る.
E 入院適応のある市中肺炎患者を外来治療する際の良い選択肢である.
問題16
季節性インフルエンザと診断した以下の状況のなかで,ノイラミニダーゼ阻害薬の適応とは言えないものを2つ選べ.
A 高血圧を基礎疾患にもつ80歳女性.昨夜から発熱し,A型インフルエンザと診断された.肺炎の合併はなく,全身状態は悪くない.
B 基礎疾患のない30歳男性.発症2日半後に受診し,A型インフルエンザと診断された.発熱は持続しているが,悪化はなく,全身状態は良い.
C 基礎疾患のない19歳男性.昨夜から発熱し,A型インフルエンザと診断された.受験勉強のため,1日も早くインフルエンザの症状を治したい.
D リウマチで免疫抑制薬を使用している35歳女性.発症2日半後に受診し,A型インフルエンザと診断された.発熱は持続し,息苦しさが悪化しているため,入院治療を行うことにした.
E ヒト免疫不全ウイルス感染症(HIV)で抗レトロウイルス療法を受けている25歳男性.最近のCD4陽性リンパ球数は650 cells/μL,HIV-RNAは検出感度未満である.発症4日後に受診し,A型インフルエンザと診断された.今朝から解熱しており,全身状態は良い.
問題17
次のうち,感染症のフォーカスを絞り込むのに有用性が低いアクションはどれか.
A 血液培養2セット採取
B 胸腹部造影CT撮影
C CRPの連日チェック
D 詳細な病歴聴取
E 直腸診
問題18
市中肺炎において,血液培養の採取が勧められるものを2つ選べ.
A ICU入院例
B 65歳以上
C 糖尿病
D 肺気腫
E 無脾症
問題19
Helicobacter cinaedi 感染症についての知見で,誤っているものはどれか.
A 本菌による感染症は,通常血液培養から検出されることにより認知される.
B 血液培養ボトルが陽性になるまでの日数は通常3日以内である.
C 臨床症状として,蜂窩織炎を伴っていることが比較的多い.
D 本感染症は再燃をしばしば認める.
E 適切な治療薬と治療期間はまだ確立されていない.
問題20
S. gallolyticus (S. bovis )菌血症をみた時に,症状の有無にかかわらず積極的に施行を考慮したほうがよい検査はどれか.
A PET-CT
B 上部消化管内視鏡検査
C 下部消化管内視鏡検査
D 腰椎穿刺
E 脊椎MRI
問題21
グラム染色において,鏡検弱拡大で質の評価をする分類法はどれか.
A Miller and Jones
B Geckler and Gremillion
C pneumonia severity index
D Ranson’s score
E Blatchford score
問題22
肺結核診断時の喀痰抗酸菌検査において最も重要な検査はどれか.
A 直接塗抹検査
B 集菌法塗抹検査
C 小川培養検査
D 液体培養検査
E 遺伝子増幅法検査
問題23
「急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013」における急性胆嚢炎の重症度判定基準のなかで,重症の判定因子に含まれていないものはどれか.
A 壊疽性胆嚢炎
B 肝機能障害
C 循環障害
D 腎機能障害
E 呼吸機能障害
問題24
血液培養の陰性確認を考慮する状況はどれか.
A Staphylococcus aureus 菌血症
B 原因不明の塞栓症を伴うグラム陽性球菌菌血症
C 感染巣不明の市中発症Enterococcus faecalis 菌血症
D ペースメーカー挿入中のCoagulase-negative staphylococci菌血症
E A~Dのすべて
問題25
感受性結果をみる際に正しいものはどれか.
A MICとは最小発育阻止濃度のことであり,殺菌できる抗菌薬の最小濃度を表す.これを判定基準と照らし合わせることでS, I, Rの判定がなされる.
B MICの判定基準は,同一の起因菌であれば,すべての感染症について同様に扱ってよい.
C de-escalationを行う際には,MICの低い抗菌薬から選ぶのが望ましい.
D de-escalationを行う際には,起因菌と感染臓器/部位を考慮する必要がある.
E 感受性結果に米国臨床検査標準委員会(CLSI)の基準を用いている場合,抗菌薬の使用量については考慮しなくてよい.
問題26
次のうち,正しいものはどれか.
A リステリアによる細菌性髄膜炎が疑われる時には,アンピシリンを投与することが推奨されている.
B ESBL産生菌とは,セファロスポリナーゼを大量に産生する菌のことである.
C 大腸菌の薬剤感受性結果が判明した場合,最小発育阻止濃度(MIC)が最も低い抗菌薬が最も効果的である.
D 大腸菌は耐性化が進み,薬剤感受性結果がsusceptibleであったとしても,アンピシリンで治療することは危険である.
E 大腸菌は一般にキノロン系抗菌薬の感受性は良好であり,第一選択として使用される.
問題27
Enterobacter 属菌の染色体上にあるAmpC β-ラクタマーゼによって分解を受けにくいβ-ラクタム薬はどれか.
A アンピシリン
B セフェピム
C セフトリアキソン
D セフメタゾール
E セファゾリン
問題28
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌感染症に関して,以下のうち正しいものはどれか.
A 標準治療薬はカルバペネム系抗菌薬である.
B β-ラクタマーゼ阻害薬を使用すれば治療に成功する.
C β-ラクタム薬以外は感受性のことが多い.
D ホスホマイシンは血流感染症の治療に適している.
E まだ日本では稀である.
問題29
特記すべき既往のない24歳男性.嘔気,右下腹部痛および38℃台の発熱で休日のERを受診し,虫垂炎と診断され入院となった.穿孔や膿瘍形成を示唆する所見はなく,外科との協議のうえ,手術は施行されずメロペネムで治療開始された.しかし,培養の提出はなされなかった.治療開始後,解熱し腹部症状および所見も改善傾向である.週明け,引き継ぎを受けあなたが主治医となった.抗菌薬のde-escalationを行いたいが,以下のどの薬剤を選択するのが適切だろうか.2つ選べ.
A セファゾリン
B アンピシリン・スルバクタム
C レボフロキサシン
D セフメタゾール
E セフトリアキソン
問題30
血中濃度測定の対象となっている感染症治療薬として,誤っているものはどれか.
A ボリコナゾール
B バンコマイシン
C アミカシン
D テイコプラニン
E アムホテリシンB
問題31
緊急を要さない待機手術であっても,手術を延期させる必要のない疾患(病態)はどれか.
A 感冒
B 敗血症
C Clostridium difficile 腸炎
D 虫歯
E メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)保菌者
問題32
55歳女性,悪性リンパ腫でR-CHOP療法3コース中に発熱性好中球減少症となった.セフェピムが投与され解熱していたが,好中球回復期に咳・痰が増え,胸部X線で右上肺野に結節影の出現を認めた.CTで同部位の膿瘍形成を認め気管支鏡検査を施行したところ,穿刺排膿液より緑膿菌が同定された.次の化学療法開始時期の検討にあたり,必要でない情報はどれか.
A 前回化学療法時の好中球減少期間の長さ
B 悪性リンパ腫の組織型
C 緑膿菌の感受性結果
D 抗腫瘍剤によるgrade 2の末梢神経障害
E 完全寛解を得ていること
問題33
以下の起炎菌のうち,ポートの温存療法(抗菌薬ロック療法)の実施が可能な症例はどれか.
A メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)によるポート刺入部に膿瘍を形成したポート関連血流感染症
B 表皮ブドウ球菌による非複雑性ポート関連血流感染症
C カンジダによる非複雑性ポート関連血流感染症
D メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)による非複雑性ポート関連血流感染症
E 表皮ブドウ球菌によるポート刺入部に膿瘍を形成したポート関連血流感染症
(解答は本誌掲載) |