今月の主題 「理解のための28題」

問題 1 以下のうち,正しい組み合わせはどれか。

(1)糞便中の水分量は,正常であれば1日100mlを超えることはない。
(2)ソルビトールが下痢を起こすのは,小腸吸収上皮の直接傷害作用による。
(3)乳糖不耐症では便秘になりやすい。
(4)大腸性下痢は,小腸性下痢に比較して糞便量が多い。
(5)経口水分補給には,電解質に加えてブドウ糖も補給するほうが有効である。

A:(1),(2)
B:(2),(3)
C:(3),(4)
D:(4),(5)
E:(1),(5)


問題 2 下痢についての記載で正しい組み合わせはどれか。

(1)潰瘍性大腸炎による下痢は滲出性の下痢である。
(2)追加障害による下痢の原因として,宿便を疑う患者において,診断に欠かせない情報は肛門診である。
(3)microscopic colitisは内視鏡的に一見正常な粘膜を有し,生検なしには診断できない。
(4)肝性脳症で用いられるラクツロースは浸透圧性の下痢を起こす。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 3 35歳の男性,会社員。管理職昇進試験が7月中旬にある。5月の職域検診では血液検査,胃X線,腹部超音波検査に異常は指摘されなかった。糞便免疫潜血検査は陰性であった。6月中旬より1回の大便の量が極端に少なくなり,常に残便感が続いている。1度にすっきりと大便が出ないので,朝の出勤時に何度もトイレに行く。すっきりしないので腸に何か悪いデキモノがありそうで心配であると来院した。食欲異常なし。煙草(-),飲酒:晩酌ビール350mlを3本。直腸指診では直腸内に糞便などを触れず。腹部触診で左前腸骨部に有痛性の索状の結腸を触れるほかに所見なし。正しいものはどれか。

(1)大腸内視鏡検査を受けるように勧める。
(2)試験が終われば治ると説明する。
(3)冷えたビールを止めるよう指導する。
(4)過敏性腸症候群の薬を処方して様子をみる。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 4 急性下痢の診断的アプローチとして正しい組み合わせはどれか。

(1)分泌性下痢の特徴は食事の摂取をやめることで下痢が止まることである。
(2)急性下痢は通常感染によるものでその大半は1週間程度で自然治癒する自己限定性の疾患であることを知っておくべきである。
(3)小腸あるいは近位大腸が障害されていれば頻回で量の少ない下痢となり,一方遠位大腸あるいは直腸が病変であれば水様性あるいは量の多い下痢となる。
(4)通常の治療に抵抗性の急性下痢では速やかに専門医へのコンサルトが必要となる。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 5 慢性下痢に関する記述で正しい組み合わせはどれか。

(1)慢性下痢の原因は,感染によるものが圧倒的に多い。
(2)糖類の吸収不良がある場合は,便のpHが低下する。
(3)分泌性下痢では,便の浸透圧較差(osmotic gap)が開大する。
(4)回腸末端での胆汁酸の吸収不良があると,大腸へ流入した胆汁酸により分泌性下痢をきたす。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 6 糞便検査について正しい組み合わせはどれか。

(1)綿棒を用いた便の培養検査は,一般には勧められない。
(2)Clostridium difficileの検出には,嫌気性培養が必要である。
(3)糞便での結核菌の培養は,陽性率が低い。
(4)赤痢アメーバでは,新鮮な便をできるだけ早く鏡検する必要がある。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 7 下痢の食事療法について正しい組み合わせはどれか。

(1)急性下痢症の際に,乳幼児などに行われることがあった“お腹を安静にする絶食療法”は不要であるというコンセンサスが得られている。
(2)食事には“生理的状態の維持・栄養学的意義”を有することのほか,精神的な充足感や,社会的機能も求められる。
(3)スポーツドリンクは水分,塩分,糖分が含まれ,急性下痢症の食事療法として理想的である。
(4)慢性下痢症においては,可能な限り食事成分を制限するよう勧める。
(5)下痢症の際に,食事の形態を変え,お粥などを摂取するかどうかは,患者の意向も重視する。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(2),(5)
C:(1),(4),(5)
D:(2),(3),(4)
E:(3),(4),(5)


問題 8 28歳の男性。8月のある日,早朝より腹痛と嘔気,水様性の下痢が始まった。夕方になって,38.0°Cの発熱と下痢便に血液と粘液が混じているのに気づいて来院した。これまでに下痢は3回である。昨日,1日前に買った市販の弁当を朝食べた。血液の検査では,白血球数12,000/μl,CRP 8.0mg/dlであった。適切な治療薬の選択はどれか。

(1)ソリタT3®500ml,点滴静注
(2)シプロキサン®(100mg)4錠,分2
(3)ラックビー®3.0g,分3
(4)ロペミン®2カプセル,分2

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 9 次のうち,抗菌薬投与が必要な場合はどれか。

(1)水様性下痢が1日に5回あり,ロタウイル スが証明された,2歳,男児。
(2)45歳,男性。39度の発熱と1日に10回の水様性下痢にて来院。ぐったりして悪寒,戦慄を認める。
(3)35歳,女性。生来健康。便からサルモネラ菌(チフス以外の)が検出されたが,下痢は改善しつつある。
(4)タイを旅行中に下痢を発症した場合に抗菌薬を服用してもよいかどうか,旅行前に相談に受診した30歳,生来健康な男性。
(5)4歳,女児。無熱だが,血便を伴う下痢。腎不全を合併している。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 10 正しい組み合わせはどれか。

(1)旅行者下痢症の罹患リスクが最も少ないのは体力のある20代である。
(2)インドから帰国後,2週間経っても下痢が止まらないので,カルバペネム系抗菌薬のempiric therapyを開始した。
(3)東南アジアへの旅行後,下痢が遷延する患者に対してジアルジア症(giardiasis)の診断のため十二指腸液を採取した。
(4)他院にて逆流性食道炎の維持療法を行われている患者と高血圧にて投薬加療されている患者では,前者のほうが旅行者下痢症のリスクが高いことが予想される。
(5)エジプトに旅行に行く患者があなたに安全な飲料について意見を求めてきた。生のミルク,生水,氷は摂取を控え,缶ジュースと水道を利用するように推奨した。

A:(1),(2)
B:(2),(3)
C:(3),(4)
D:(4),(5)
E:(1),(5)


問題 11 腎盂腎炎で入院し,抗菌薬投与後10日間経過した患者が水様下痢を訴えている。まず行うべき検査や処置は次のうちどれか。

(1)止痢薬の投与
(2)便培養の採取
(3)下部消化管内視鏡検査
(4)抗菌薬やそのほかの使用薬剤の中止を検討

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 12 HIV/AIDS患者の下痢の原因として通常はあてはまらないものは何か。

A:Kaposi肉腫
B:悪性リンパ腫
C:MRSA
D:cytomegalovirus
E:Crohn病

問題 13 blind loop syndromeについて正しい組み合わせはどれか。

(1)大球性貧血の合併をみることがある。
(2)下痢の主な原因は水分の吸収障害によることが多い。
(3)下痢の結果,低栄養は起こることがあっても,ほかの全身症状が起こることは稀である。
(4)再手術によってblind loopを解除すれば症状は軽快することが多い。
(5)適切な抗菌薬投与により,下痢は1週間以内に軽快することが多い。

A:(1),(2)
B:(2),(3)
C:(3),(4)
D:(4),(5)
E:(1),(5)


問題 14 Clostridium difficileによる下痢で正しいのはどれか。

(1)食中毒の一種である。
(2)治療にはST合剤を用いる。
(3)治癒には便培養陰性の確認が必要である。
(4)先行する抗菌薬の使用がハイリスクである。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ 
E:(1)~(4)のすべて


問題 15 次のうち,正しいのはどれか。

(1)腸管出血性大腸菌による腸炎では,HUS(溶血性尿毒症症候群),脳症を合併することがある。
(2)サルモネラによる腸炎では,敗血症,脳炎を合併することがある。
(3)腸炎ビブリオによる腸炎では,心筋抑制をきたすことがある。
(4)ドクツルタケによる中毒は,下痢で発症し,劇症肝障害で死に至ることがある。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 16 便秘について正しい組み合わせはどれか

(1)3日以上排便のない状態を便秘と呼ぶ。
(2)便秘は機能性便秘と器質性便秘に大別できる。
(3)便秘の患者にはまずイレウスなど緊急に対応すべき状態であるかどうかを判断する。
(4)中高年の便秘をみた場合,大腸癌を念頭において大腸内視鏡検査を行うが,その場合経口腸管洗浄剤を用いた前処置を必ず行うべきである。
(5)弛緩性便秘の治療には,食事や運動などの生活習慣の改善が重要である。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(2),(4)
C:(1),(4),(5)
D:(2),(3),(5)
E:(3),(4),(5)


問題 17 女性の便秘について正しい組み合わせはどれか。

(1)若い女性の便秘は,ダイエットなどによる食物摂取量の低下も誘因である。
(2)妊婦の便秘は,モチリンの低下や子宮の増大が関与する。
(3)高齢者の便秘は運動量の低下と便排出力の低下によることが多い。
(4)機能性便秘治療の第一選択は薬物療法である。
(5)白米は玄米より食物繊維が多い。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(2),(5)
C:(1),(4),(5)
D:(2),(3),(4)
E:(3),(4),(5)


問題 18 便秘薬の使用で正しいのはどれか。

(1)弛緩性便秘は下腹部痛を伴うことが多く,抗コリン薬が有効である。
(2)便秘薬は排便リズムが回復すれば,中止することが可能である。
(3)弛緩性便秘の治療基本は,塩類下剤と膨張性下剤である。
(4)排便が毎日ない場合は便秘薬の増量が必要である。
(5)痙攣性便秘には,腸粘膜を刺激し排便を促す作用があるカレーや辛子の積極的な摂取を勧める.

A:(1),(2)
B:(2),(3)
C:(3),(4)
D:(4),(5)
E:(1),(5)


問題 19 妊娠中の便秘について正しい記載はどれか。

(1)妊娠中の便秘の原因は機能性便秘である。
(2)妊娠中分泌されるプロゲステロンの腸管平滑筋への作用と,肥大した妊娠子宮による機械的圧迫を受け腸運動が低下する。
(3)治療としては,まずは大腸刺激性下剤を使用することから始める。
(4)体操,散歩,軽い水泳といった適度な運動は,妊娠中の便秘に対する治療としては適さない。
(5)便秘を放置すると,痔疾の原因・増悪因子,また流・早産の誘引となりうることもある。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(2),(5)
C:(1),(4),(5)
D:(2),(3),(4)
E:(3),(4),(5)


問題 20 大腸偽メラノーシスについて正しい組み合わせはどれか。

(1)大腸粘膜が黒いのはメラニンの沈着による。
(2)非刺激性の下剤によって起こる。
(3)原因薬剤の中止により消失する。
(4)基本的に良性の病態である。
(5)リポフスチンは,この病態と関係がない。

A:(1),(2)
B:(2),(3)
C:(3),(4)
D:(4),(5)
E:(1),(5)


問題 21 次のうち正しい組み合わせはどれか。

(1)宿便が閉塞機転となって急速に大腸閉塞症状をきたすものを急性偽イレウスという。
(2)S状結腸軸捻症の治療の第一選択は外科手術である。
(3)急性偽イレウスは閉塞機転がなく,刺激性下剤の投与をまず試みる。
(4)高Ca血症,低K血症,低Mg血症のうち,すべてが便秘の原因となりうる。
(5)便秘は虚血性腸炎の重要な誘発因子である。

A:(1),(2)
B:(2),(3)
C:(3),(4)
D:(4),(5)
E:(1),(5)


問題 22 正しい組み合わせはどれか。

(1)糖尿病患者では平滑筋障害が主因となり,便秘を起こす。
(2)甲状腺機能低下症では腸管のtransit-timeが短縮し,便秘を起こす。
(3)糖尿病患者における便秘は,腸閉塞,S状結腸軸捻転,腸管穿孔など重篤な病態を引き起こすことがある。
(4)強皮症における便秘では偽性腸閉塞を起こす。
(5)カルシウム拮抗薬の点滴静注は,腸管麻痺を起こしうる。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(2),(5)
C:(1),(4),(5)
D:(2),(3),(4)
E:(3),(4),(5)


問題 23 高齢者の便失禁について,正しい組み合わせはどれか。

(1)液状便の失禁を認めたので,止痢薬を投与して経過観察とした。
(2)便失禁には,安価で安全な食物繊維の摂取が第一選択である。
(3)安静時の肛門括約筋トーヌスが低下している場合,バイオフィードバックの適応はない。
(4)直腸診で宿便を触知しなかったが,念のため腹部単純X線写真をオーダーした。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 24 化学療法中の患者にみられる便秘の原因となるのはどれか。

(1)モルヒネ
(2)植物アルカロイド
(3)高カルシウム血症
(4)骨盤内腫瘍

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 25 薬剤惹起性腸炎に関して,正しいのはどれか。

A:偽膜性腸炎の罹患部位は右側結腸が中心である。
B:偽膜性腸炎の治療にはペニシリンGを用いる。
C:出血性大腸炎は高齢者に多く発症する。
D:MRSA腸炎は免疫力の低下した患者に多く発症する。
E:NSAIDs腸炎は主に大腸を潰瘍性病変の主座とする。

問題 26 高血圧と心疾患で他院通院中の高齢者が,3カ月にわたる便秘を訴えて受診したとき,初期の段階で行うべきことは次のどれか。

(1)現在服用中の薬剤を調査する。
(2)便秘を誘発する治療薬があれば,患者の基礎疾患を評価したうえで,中止可能かどうかを検討する。
(3)主治医と相談のうえ,治療薬の変更または中止を考慮する。
(4)消化管悪性腫瘍を見落とさないよう,内視鏡または造影X線を予定する。

A:(1),(2),(3)
B:(1),(3)
C:(2),(4)
D:(4)のみ
E:(1)~(4)のすべて


問題 27 次のうち,誤っているものを1つ選べ。

A:Parkinson病では便秘が高頻度にみられる。
B:Parkinson病の治療薬の多くは便秘を増悪させることがしばしばある。
C:うつ病では便通異常がしばしばみられる。
D:三環系抗うつ薬では下痢が高頻度にみられる。
E:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による便通異常は薬剤によって異なる。

問題 28 過敏性腸症候群の症状として典型的ではないもの(器質的病変を疑わせるもの)はどれか。2つ選べ。

(1)夜間就寝中に覚醒する腹痛
(2)排便で軽快する腹痛
(3)朝食後のみに繰り返す下痢
(4)高校生時代から20年以上繰り返す便秘と下痢
(5)肉眼的血便

A:(1),(2)
B:(2),(3)
C:(3),(4)
D:(4),(5)
E:(1),(5)


(解答は本誌掲載)