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●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】

第9回テーマ

神経・筋

鈴木博義(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床検査科)


 神経・筋疾患を扱う病理学の領域を神経病理学(neuropathology)とよび,米国では病理学の中のsubspecialityとして神経病理医を認定する制度が設けられている。神経系や筋組織を侵す病態のなかには,全身性の疾患が神経,筋系へ影響を及ぼし障害が起こっているものも多い。神経・筋疾患に関して病理医とうまく付き合って最大限のよい結果を得るためにはまず,担当の病理医と緊密な情報交換を行うことから始まるといえよう。筆者が神経病理の本格的な勉強を始めた当時,師から「neurologyのないところにはneuropathologyは存在しない」という言葉を教えられた。どの臓器の病理でもそうであるが,臨床神経学においては,神経症候を発現している病変部位とその病態の2者が決定されて初めて,リハビリテーションも含めた治療方針の決定に有用な診断につながることになる。病理診断に関しても,病理学的に見いだされた病変が,どのような臨床症状につながっているのかがわからなければ,神経病理学的な検索を行う意義がなくなってしまう。よって,神経病理学には詳しい診察とよく吟味をされた検査による臨床情報が必須なのである。読者諸君には主治医として神経疾患を担当する際には,ぜひ,内科診断学の神経疾患診察法に再度目を通し,病歴を詳細にとり,意識レベルや精神症状および高次機能障害から始まる系統的な神経学的所見をきちんと記録することを行ってほしい。その記録が病理検査依頼書,剖検申込書に記載されることにより,臨床医と病理医との間に理想的な連携が生まれるのである。

■中枢神経疾患

1. 髄液検査の有用性

 髄液検査は生化学的検査,いわゆる一般検査の範疇に入るものと思われがちであるが,実際は病理学的検査の一つでもあり,髄液細胞を塗抹し,Giemsa染色を行うことにより,簡単に髄液の細胞診を行うことが可能である。塗抹は病理検査室で機械的にも行うことが多いが,簡単な器具を用いて病棟でも行うことができる。Giemsa染色やGiemsa染色と同等の染色を迅速に行えるディフ・クイック染色液を用いれば,もっと短時間で顕微鏡的観察が可能になる。髄液細胞診検査も神経病理学においては大切な検査の一つであること理解していただきたい。

 髄液沈渣塗抹Giemsa染色標本を観察すれば,その場で細胞数の結果を待つことなく,髄液細胞の増加の有無,化膿性髄膜炎か無菌性髄膜炎かの推定や,癌細胞や白血病細胞の有無などを知ることができる。さらに髄膜炎の治療効果判定も可能である。よって,自分自身でも標本を顕微鏡で観察することをぜひ行ってほしい。髄液を含めた細胞診は,病理検査室では病理医と細胞検査士が連携して行っている。時間を見つけて病理検査室に足を運び,病理医といっしょに顕微鏡で検体を観察し,細胞診断を行う過程について担当病理医から勉強してほしい。参考までに,代表的な疾患の細胞像を示した(図1)。

(つづきは本誌をご覧ください)