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●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】

第7回テーマ

皮膚

辻香(東京医科大学八王子医療センター皮膚科)
峯村徳哉(東京医科大学八王子医療センター皮膚科)
望月眞(国立国際医療センター臨床検査部病理)


望月 今回は皮膚病理についての話題です。「皮膚の病気は皮膚科に診せよ」というのが原則だと思うのですが,これを言ってしまうと今回の話は終わってしまうわけなんですが……。

 そうでもないですよ。

望月 まあ,なんでもかんでも皮膚科に患者さんを送るわけにはいかないですよね。では,どの程度の病気までは他科でも診察してもらいたいものですかね。

峯村 皮膚科ですべて診療とまではいかなくても,原則としてうちの病院内のすべての皮膚疾患は少なくとも皮膚科で診断まではしたいですね。

■皮膚科以外の医師が皮膚疾患を診ること

峯村 発疹のみられる疾患は大きく6つに分けられると思います。(1)水虫みたいに皮膚病変のみの疾患,(2)皮膚悪性黒色腫が転移して内臓病変が生じるような皮膚疾患が内臓病変を生ずる疾患,(3)麻疹,風疹,水痘などの感染症や,全身性エリテマトーデス,汎発性強皮症,皮膚筋炎,結節性多発動脈炎などの膠原病,紫斑病,Behet病のように全身臓器の疾患の一症状として皮膚病変もみられる疾患,④糖尿病患者に生じる糖尿病性壊疽,閉塞性動脈硬化症に生じる壊疽など全身疾患の悪化に伴って生じる皮膚病変,(5)内臓皮膚症と呼ばれている内臓疾患により引き起こされる反応性の皮膚病変,(6)皮膚疾患とは関係なく他臓器疾患がある場合,です。

 (1),(2)は皮膚科が主体での診療ですが,(3),(5),(6)については関係各科での診療になると思います。④は原疾患を専門とする科が主体で,皮膚科はサポートする形になると思います。

 ただし,(6)のケースは高齢者に多いと思います。総合病院では1日で各科の診療を受けられますが,そうでない場合,独立したクリニックを何軒も受診するのは難しく,主体となる診療科がすべての疾患を診療することにならざるをえないと思います。したがって,(6)のケースでは皮膚科が主体というケースは少なく,おそらく内科がすべてを診療することになるのではないかと思います。

望月 プライマリケアを担う医師は皮膚の病気も診療できないといけないわけで,責任重大ですね。

 でもやっぱり,間隔はともかく定期的に皮膚科医が診察したいですね。

 それから,皮膚科にすぐ紹介しないといけない疾患があります。例えば蜂窩織炎,丹毒,壊疽,化膿性粉瘤など急性期の細菌感染症,一刻を争う疾患では壊死性筋膜炎や皮膚悪性腫瘍,薬疹,中毒疹ですね。また,意外と思うかもしれませんが,水虫も皮膚科で診断をつけてから治療を開始したい疾患です。水虫は治療を開始してしまうと顕微鏡で真菌を見つけにくくなり,本当に水虫であるのか,厚硬爪甲,鉤状爪など加齢による爪の変化なのか,確定診断が難しくなります。アトピー性皮膚炎も皮膚科できちんと診療したい疾患です。

望月 臓器転移で見つかった悪性黒色腫の患者さんが皮膚の原発巣を見つけるために皮膚科に送られることもあるようですが,皮膚科でなくても代表的な腫瘍病変は肉眼診断しないといけないでしょうね。

峯村 そうですね。また,皮膚腫瘤を切除したら悪性黒色腫と病理診断されて皮膚科に紹介されてくる場合もあります。有棘細胞癌など,他の皮膚癌の場合もあります。皮膚腫瘤を切除した場合,必ず病理診断はしていただきたいですね。

望月 まあ,病理診断は必ずするとは思いますが,病理の立場から言うと,皮膚の病気は皮膚の表面から診て診断をつけるのが基本だと思っています。ですので,全然わからないけどとりあえず生検したでは,病理組織診断するときにも困りますけどね。

 ところで,皮膚科では,日常の外来のどのくらいの割合の患者さんを一見しただけでぴたりと診断できるものなんですか。

峯村 9割強はインプレッションとして特定の疾患が浮かび上がります。でもこの数字は,聞いて,見て,触っての診断がいかに不完全なものかを示していると思います。もちろん,残りの1割弱はまるでわからないということでなく,いくつかの疾患が考えられるわけです。また,9割強の疾患でも鑑別診断は必ず考えるわけです。いつの時代でも,どこの部局でも過信は誤診の源ですので,このことを肝に銘じて診察を行うのが医療の基本的姿勢ではないかと思います。

望月 結局のところ,生検しないと診断がつかない患者さんはどれくらいの割合でいますか。

峯村 非腫瘍性疾患でも皮膚生検は診断を確認するために行う場合のほうが多いですし,腫瘍では治療のため切除した組織を病理診断する場合が多いし,まるでわからずに皮膚生検をする場合は意外と少ないんです。また,臨床的にまるでわからない場合は,組織でも明確に診断できないことのほうが多いように思います。

 皮膚生検をする場合の例を挙げますと,発熱・倦怠感といった全身症状に,下腿から大腿にかけて浸潤のある有痛性の紅斑が生じ,結節性紅斑を疑い,鑑別診断は硬結性紅斑,Behçet病,血栓性静脈炎と臨床診断して,確定診断のため皮膚生検をします。病理診断がseptal panniculitisで,最終的に結節性紅斑と確定診断されるというケースですね。病理検査を行うのは,腫瘍を含めますとおおむね5%くらいですかね。

望月 後でも話題が出ると思いますが,皮膚の病名というのは表面性状や病変の分布でつけられるものが多いので,組織像だけでは病名が決まりません。臨床所見が診断に重要なことが多いですね。

峯村 はい,そうですね。ただ,病理組織を見て,それから振り返って発疹を見ますと,やはりこの診断でなければならないと思うことはよくあります。

■病理組織検査の実際

1. 写真で記録を撮る

望月 皮膚科では,病変の記録のためにきれいなカラー写真を撮るでしょう。あれは,生検する症例だけなのですか?

峯村 違います。病理診断する場合は必ず発疹を写真で記録しますが,それ以外の場合でも写真で記録を残します。最近,発疹の記載のしかたが貧弱だと言われますが,これは写真が手軽に撮れるようになったからかもしれません。ただ文字化しますと,発疹の性状を言葉で表す段階でかなりのバイアスがかかってしまう感があるのは否めません。確かに,映像の情報では表せない,微妙な症状(硬さ,柔軟性,熱感,周囲組織との関連など)もありますが,こと色調,表面からの形状などは写真が優れていますし,経過ごとの比較は写真では一目瞭然です。文章も写真もどちらも必要だと思いますが,難しい症例では写真を中心に検討会で話し合ったりします。今後,電子カルテになると全例写真で記録することになるかもしれませんね。

望月 病理も手術検体の肉眼写真をきれいに撮るのが基本ですし,やっぱり形態診断の基本というわけですね。

 皮膚病変を表す表現法の一つという意味ではそうですね。

望月 外科とか他の診療科で生検されてしまった珍しい症例が,皮膚表面からの写真の記録がないという場合は少し残念です。例えば内科のカンファレンスで皮膚の写真はなかなかプレゼンテーションされないですね。

 そうなんですか。X線写真などの画像情報や心電図などの生理検査の情報は必ずあるように思いますが。

2. 申し込み用紙の書き方

望月 病理診断時に臨床情報はできるだけたくさんほしいわけです。八王子医療センターでは,病理への申し込み用紙の写しを皮膚科でサマリーとして使っていたということもあるんでしょうが,臨床情報がよく書かれているので助かっていました。

 ははは,そうであるといいのですが。ただ,申し込み用紙には,(1)皮膚科としての臨床診断,鑑別診断,(2)現病歴として,いつから,どのような所見のものが出現し,どのように変化したか,(3)どのような治療を受け,どう反応したか,④生検時にはどのような大きさでどのような性状であったか,(5)そのどういう部分をどれくらいの深さまで生検したか,など,診断してくださる病理の先生にできるだけの情報を伝えられたらと考えて書いています。

望月 電子カルテになって,記載が簡略化する傾向があるので,病理のオーダーをどうしていくかはこれからの問題でしょうね。

 デジカメの情報をオーダーに入れておければ,生の写真を見ることができるようになるのでは……と思っています。

望月 八王子医療センターでは,毎週のカンファレンスのときにさらに詳細を詰めていました。紙上のコミュニケーションだけでなく,皮膚科と病理で顔を付き合わせて組織や肉眼を見て総合診断する状況がベストですね。

3. 報告書の読み方

望月 皮膚の病名のつけ方は,臨床所見が重要であって,病理組織診断だけで決定されるものではありません。炎症は特にそういう傾向が強いです。例えば,病理組織診断はinterface dermatitisでも,さまざまな病気の可能性があります(図1)。

峯村 そうですね,皮膚の病気では病理組織所見が似ていても,異なる疾患の場合があります。たしかに炎症性疾患ではその傾向が強いと言えます。尋常性乾癬と貨幣状湿疹とは臨床症状を見れば迷うこともありませんが,病理組織は似ています。苔癬型反応は薬疹でもウイルス感染症でもみられますので,病理組織所見だけでは臨床診断には到達できませんね。

(つづきは本誌をご覧ください)

日常診療で役に立つ皮膚病理の教科書
・ナーゼマン H・他(著):臨床医と病理医のための皮膚病理学,シュプリンガー・フェアラーク,東京,1994
・真鍋俊明,幸田 衛(著):皮膚病理診断アトラス-組織像の見方と臨床像,文光堂,1992
・Elder DE, et al(eds):Lever's Histopathology of the Skin, 9th ed, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2005
・McKee PK, Calonje E, Granter SR (eds):Pathology of the Skin with clinical correlation, 3rd ed, Elsevier Mosby, Philadelphia, 2005